焦燥 |
綻ぶ、とはまさにそんな事を言うのだろう。 いつになく穏やかな微笑を浮かべた喧嘩人形は、その柔らかな笑みを隣の上司に向けていた。面白いことでも言われたのか、それとも隣にいることが楽しいのか。遠くからたまたま視界の隅に見えてしまったのだった。 優しげに眼尻を下げて、眩しいものでも見るかのように目を細めで、ほどくように口端を持ち上げたその顔は、腐れ縁で長く付き合ってきた中でも、あまり見ることのない笑みで。 まるで、普通の人間みたいで。 臨也の中に、何かが燃えるような思いが一瞬にして湧き上がる。 その感情は怒りか、それとも別のものなのかは分からない。けれども確信する前に押し殺した。危ないものだ。理性が警告する。この感情を持ってはいけない。 けれども消し残ったその残骸は、まるで焦がすようにじりじりと心の端を、焼いた。 小説top |