揉み消されたのは



俺が煙草を吸っていると、伸びてきた手がその火種の部分を揉み消した。

「ちょ、待て!」

思わず声を荒げる。
揉み消された煙草はほとんどなくなりかけて、そろそろ灰皿に押し込めようと思っていたものだから別にそのことにたいして怒ったのではなかった。
俺でもこんなことをしたら指先に火傷をしてしまうことぐらい分かっていたからだ。

「昔見た映画にこうやって恋人の煙草を揉み消すシーンがあってさー」

格好良かったからいつか自分もやりてぇなって思って。映画の名前忘れちまったけど。

寝ころんだままで短くなった俺の煙草を抜き取った戌井は、まるで俺の声など聞こえていなかったかのように、いつものようにへらへらとした笑みを見せた。虹色の髪の毛が揺れる。
そんな様子に一気に力が抜けた。

「……そうかよ」

隣に寝ている戌井をまたぐようにして、ベッドサイドに置かれた煙草の箱をつかもうと手を伸ばせば、その手をつかまれた。そのまま勢いよく引かれて戌井の上に覆いかぶさるような形になる。

「おいっ」

いい加減にしろ、と続けようとした言葉は、途中で止まる。

柔らかな唇が触れたとおもったら、生暖かい舌が口内をめぐる。反射的に目をつぶった。そのことを同意だと受け取ったのか、戌井はさらに執拗に舌を絡める。
しかし軽く肩をごついて、止めろと訴えれば、普段とは違ってあっさりとその縛めはほどかれた。どちらのものとも分からない銀糸が、離れた口の間を伝う。
にやりと笑うその口から見える犬歯は思っているよりも鋭く尖っていて。

「なぁ、煙草よりもいいことしようぜ」

誘うような口調のくせに、反論の声は再び唇に遮られた。











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