マトリョーシカ



何重にも隠された本心は俺さえも知らない。知りたくもない。

俺は自分自身の本心など知らなくても生きていけるし人生を楽しんでいると言い切れる自信がある。ああ、自分の掌の上でくるくると愚かに回り続ける人間たちが愛おしい。馬鹿な子ほど可愛いものだと言うけれどもきっと親というものはこういう気分なのだろう。なんて馬鹿で愚かな生き物。けれどもその盤上の上からはみ出すものはどこにでもいるわけで。どうして彼は俺の言う通りにならないのかな。ちゃんと駒の一つとして扱っていてあげているのに。プレイヤーの命令を聞かないキャラクターなどただの屑だ。だから、俺は彼のことが嫌いだ。大嫌いだ。喧嘩人形だとか池袋最強だとかなんやらかんやら言われているけれども彼はあくまで人形であり化け物であり俺が愛してやまない人間の範疇の中には含まれていないはずだ。そのはずだ。大嫌いだ。嫌いだ。死んでほしいと思っている。むしろ殺してしまいたい。この手でその心臓を握りつぶしてしまいたい。そう思っているはずだ。けれども、なぜ俺は彼に嫌がらせをするだけで薬を盛ることをしないのだろうか。なぜ。なぜ。なぜ。それは俺の中の矛盾でありどうしようもない感情が支配する領域だ。なぜどうして俺は彼を殺せないのか。愛せないのに。俺が愛せられることが人間の定義であるならば彼は人間ではない。化け物だ。怪物だ。怪力だけではなくその動物的直感で俺の行動の向こう側のにおいをかいで俺の予測を上回る。彼は俺の駒から飛び出して俺の手を傷つける。嫌い。大嫌い。死んでほしいくらい。彼が死んでくれれば俺はもっと面白いことばかりできるのに。どうして彼は生きているのだろう。死んでいないから。殺されていないから。俺が殺せられないから。どうして俺は彼のことを殺せない。どうして。どうしてどうしてどうして。疑問は尽きない。面白くない。本心など知ったところでどうするのか。俺は知りたくはない。知らなくていい。ただ彼を殺せればいい。そのはずだ。

そうだろう?


折原臨也。











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