さて君の海は思ったより深い



――触れてから、その深さに恐怖した。

どうしようもないほどに俺はこいつの過去を知らなかった。ただの中学生時代の髪がまだ茶色だった頃の静雄しか知らなかった。俺だってこの年になるまでに色々な事を経験したけれども、こいつの深い闇に俺は恐れを感じたのだ。その少し猫背気味な後ろ姿に。伏し目がちなサングラスの向こうの目に。パサパサとしてブリーチをし過ぎた色素の薄い髪に。その節々からひっそりと立ち上る寂寥の念に、怖気づく。
どうしようもないほどに愛を求めて。けれどもそれは叶うことを最初から諦めて。愛されたい。愛したい。そんな叫びはただこいつの胸の内だけでいくつも反響する。

愛してくれ。愛してくれ。愛してくれ!

その心の中だけで消えていくはずの木霊は、しかし隣にいた俺の元まで響いてしまった。
次第に大きくなる叫びは、俺の心を軋ませる。ギシギシギシ。キシキシキシ。誰かの笑い声にも酷似したその痛みは次第に大きくなっていった。だからこそ、だけれども、その深い闇をのぞかずにはいられなくなってしまった俺を誰が責められるというのだろうか。

悲しいほどに愛に飢えている、この哀れな化け物の心内を。






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お題お借りしました。
joy











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