クリスピー・クリスピー



ある日、二人が取り立てに向かっている途中で急に静雄は足を止めた。それにつられて、今まで隣で話していたトムも止まる。

「ん? どうしたべ、静雄」

トムが隣にいる静雄へ顔をむければ、静雄は首をひねってある一点を凝視していた。その目線の先をたどっていけば、一本の通りを挟んだところに見える見慣れたうたい文句。

“ドーナッツ、今なら全品100円!!”

ああ、そう言えばこいつはこう見えても大の甘党なんだったっけ……、と思い出しながら、無言で広告ののぼりを見続ける部下に破顔した。キラキラと目を輝かせている顔は、どことなくおもちゃを前にした子供のように見える。きっと、静雄の頭の中ではドーナッツのことで一杯なのだろう。可愛いやつだ。

「次の取り立てにはまだ時間あっから、行ってこいよ」

その言葉で急に現実へと引き戻された静雄が、驚いて上司の顔を見た。

「えっ……、良いんですか」

そんな、だって、これは、いや、その、ええっと……、としどろもどろになって口ごもる静雄の肩を、トムは笑いながら軽く叩いた。

「いいから、いいから。ついでに俺の分も一個買ってきてくれ」
「あ、ありがとうございます!」

嬉しげに満面の笑みを浮かべて、静雄は道路へと駆けていく。その後姿をほほえましげに見送りながら、今日は心優しいあいつが誰も殴りませんように、とトムは心の中でそっと祈った。











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