与えられた名前だけは大事にね



ああ、と思う。嘆息する。
ああああ、そんな溜息が口からこぼれる。

破壊の跡は暗い色をしていた。物陰に隠れるように行われたそれは、予想通りにただ一人の勝利で幕を閉じだ。横たわる肉体の中でただ一人立っているソレは、自身が笑みを浮かべていることにさえ、気が付いていないようだった。

怪物だ。
眼下で繰り広げられた破壊が、見せつけられた一方的な惨劇が終わってしまった後、臨也はそう評価を下した。
アレは人ではない。
人の皮を被った、ただの化け物だ。

じわりと嫌な汗がこめかみを垂れる。背中がちりちりと痺れる。正体も分からない感情が湧き上がってきて、急速に拡散する。恐ろしいと思う。逃げ出したいと思う。あの頬を殴ってやりたいと思う。抱きしめてやりたいと思う。指一本でも触れたくないと思う。理解を拒む何かが、ざわざわと胸の内を揺らす。強烈に身を焦がす。

アレはまだ、気が付いてない。屋上から見下ろす影に気が付いていない。こちらの悪意に何も気が付かぬまま、まるで普通の人のように服を払い歩き出している。その金髪の後頭部ばかりを見せつけられる。

もしも、こちらを振り返ったら、臨也は心の中だけで賭けをする。この感情は恋情としよう。けれど、もし、振り返らなかったら、これに憎悪という名前を付けよう。

そんな他愛のない賭けをして、臨也は揺れる金色を見つめる。





title by joy








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