さよなら、おやすみ、またいつか



何時からだか、どちらからだか覚えてはないけど、確かに俺達には初めがあったのだからきっと終わりもあるんだろう。残念なことに今はまだその時の中間地点のようで終わりの見えない負の連鎖に捕まってしまったままみたいだ。そんな下らない運命に操られている話なんてきっとつまらないと一蹴するだろうけれども確かにこれは自分達の運命なんだと俺は思っている。
だから、俺は君に手紙を書くことに決めた。

どうせなら、最初から書こう。
今回は僕の記憶ではなかなか早い記憶で俺が君のことを思い出したのは13歳の、そう、ちょうど双子の妹の誕生日で二人そろってバースデイケーキの炎を吹き消したときだった。
俺は突然全部思い出して失神したんだ。最初はただ、火が消えたから真っ暗になったんだと思ったんだけれどそれから鮮やかに君とのそれまでの記憶が思い出されたものだから俺は訳が分からなくなってそれから一週間くらい高熱でうなされていたみたいだね。
いや、これも全部君のせいだなんてそんなこと言わないよ。でも、君との思い出の中で出来れば思い出したくなかった胸糞悪いあれやこれはたくさんあったな。そんな前世の記憶みたいなものを思い出したときはとても信じられなかった。でも、それからの俺は慎重に自分の新しい記憶が本当に正しかったのか証明することにした。13歳にしてはなかなかのものだろう? 「俺には前世からの記憶がある。うんたらかんたら」とかいう教祖になるなんてまっぴらごめんだったしそんなことを人に話して精神病院に連れ込まれるのも嫌だったんだ。
それで、俺が知るはずのない歴史的事実が確かにあったんだと知った時は、それこそ、最初の衝撃と同じくらい目の前が真っ暗になったよ。
まるで自由だと思っていた自分の人生が運命なんて下らないものに支配されているんだと知った時にはね。
けれど運命は俺のことなんてかまっていられないのか、決められたレールをするすると進んでいくみたいに俺の意図とはかけ離れたところで全部仕組まれていたんだ。

俺達は、本当は高校で会うはずじゃあなかった。
俺が行くはずだった高校が、なぜか突然合格を取り消したんだ。その次もダメだった。……ただ、一校を除いてね。何が悪かったのか全く理解できないよ、今でもさ。まさか傷害事件で引っかかったなんてそんなこと、俺の成績の優秀さと素行の良さに隠れると思っていたんだけれど、たぶん俺の行いを知った誰かが告げ口したんだろう。
まあそんなことは些細なことだよ、偉大なる運命様とやらの前ではね。とりあえず俺はそうして来神高校に入って君に出会った。やっぱり来るだろうと思って俺は屋上のフェンスから校門を見下ろしていたものだよ。そうして既視感と共に君を見つけた。君が見上げて視線が合った時はまさに体に電流が走ったね。びりびりびりびりっと。ああ、俺たちは出会わなければならなかったんだ。これは仕組まれたことなんだと知って、この学校に入学してきた君を酷く恨んだものだよ。

それからは実に散々だった。何とかして俺は運命を変えようと奔走した。
君に使った労力で何十人も貶められることが出来るくらいだった。ありとあらゆる手段を用いたけれども君はいつも俺の手段だと分かった時は、君には恐るべき嗅覚が備わっているものだと思ったものだよ。前世の記憶があるんだから君の行動なんて予測できそうなものなのに、君はいつも俺の範疇をこえていて、だからこそ俺は叩き潰したくなってしまうのかもしれない。

高校を卒業してから、俺は本格的に情報屋の仕事を初めて、君はバイトをいろいろやったけれどバーテンダーの仕事に着いた。まあ、安定したと思った時にブチこわすのは俺の性癖みたいなものだけれど、せっかく君が就職できたバーテンダーの仕事をクビにしてやったとき、あのときは本当に君に殺されるんじゃないかと思ったな。

それから、いろいろあって俺は新宿に引っ越して、君は借金の取り立て屋になった。それからあまり合わなくなったけれど、君は俺が池袋に居るとすぐにどこからか表れて俺を追い出そうとしてきた。運命みたいにね。君にもこの下らない記憶があるのかと思ったけれども、いつも本気で追いかけてきて殺そうとしている君を見ているとそんな記憶をうまく隠してそんな風な態度が出来るなんて思えなくって、だから、俺は君のそんなところに安心していたのかもしれない。ああ、俺たちはずっとこのまま死ぬまでお互いに恨み続けて死ねるんだって。下らない運命の輪になんて縛られないようになっているんだって。

でもダメだった。
もう駄目だった。運命との根競べに負けしたのは俺だったよ。

俺はいつの間にか君のことが好きになっていたようだ。

いや好きだとかそんな軽い話じゃない。気が付いたら君のことばかりずっと考えていたりして、そうして何をしているんだろうとか誰と一緒に居るんだろうとかそんなことを考えるとどうしようもなく堪らなくって、どんなことをしても君に会いたくなって、この両手で君を抱きしめて、優しいキスをしたくなるんだ。
酷い話だろう。俺は本当に君のことなんて大嫌いだったはずなんだ。君に出会う前から、君のことが、死ぬほど嫌いだった。こんなバカみたいな男に恋をする自分の姿なんて嫌だったんだ。みっともないってね。今はそんな自分がバカだったと知っているし、嫌いだよ。

ねえ、シズちゃん。君は前世とか運命とか、信じるかな。
いや、信じないだろうね、君ってそういう面倒くさくて話の長いのが嫌いだからさ。でも、俺には君にずっと前から出会ってきたんだ。100年とか200年とか、気の遠くなるほど前から俺たちは出会って殺し合って憎しみ合って、そして同じだけ愛し合ってきたんだ。馬鹿みたいにくだらない話だろ。そんな話なんてさ。
きっと今までの俺達もそうだったんだろうね、だから俺達は戦争みたいな喧嘩を繰り返してきたんだ。

こんなことを書くのは実にフェアじゃないことなんて知っているけれど、俺はやっぱり自分自身で人を好きになりたいしこんな運命に翻弄されるだけの人生なんてまっぴらなんだ。
君は俺のことが殺したくなるほど憎いことなんて、俺がそう仕向けたから仕方のないことなんてよくわかっているくせに、君が実に憎々しげに俺の名前を呟くたびに俺の心臓はつぶれそうに痛むんだ。そうして射殺すように睨みつけるたびに背骨が甘く苦しく痺れるんだ。ああ、君を俺は永遠に手に入れられないけれど今君が俺を見ていることだけは確かなことなんだなって。

恋をしていたんだよ。そして、君を愛していたんだ。前世や運命なんて話は俺の妄想なんだろう。俺は臆病者なんだ。いつも確実な逃げ道ばかり探していて、どうやったら君から逃げられるんだろうってことしか考えていないんだ。だから、前世や運命なんて言葉は俺には都合の良い言い訳に過ぎないよ。でも、確かに俺の頭の中には今まで君と出会ってきて恋をしてきた記憶が積み重なっているし、それらが俺に何も影響を及ぼさなかったなんて考えられないけれど、でも、この時代の君に出会ったのは今の俺で、そして俺が恋をしたのは今の君だ。
それだけは自信を持って俺は言える。

俺は平和島静雄を愛していた。

だから俺は、俺達の秘密を君に言わないことにした。

こんな鎖に縛られるのは俺だけでいい。君は自由に生きてほしい。俺以外の人に恋をして、結婚して、そうして幸せになってほしい。俺は時々そんな君の生活を夢想して、そうして叶わなかった恋の話を誰かにするかもしれない。それくらいは許してほしいと思う。

君のことが好きだったよ。とても好きだった。
だから俺たちは離れなければいけない。俺は君に何も言わず君の人生から退場しようと思う。きっと君の人生をめちゃくちゃにしてしまった原因の半分は俺のせいだと思うけれど、ごめんと言ってそれで許してくれるとは思えないけれど、ごめん。

きっと君と二度と会わないところに俺は行く。君は俺のことなんて嫌いだろうからいなくなって清々するかな。上司や弟に笑顔でも見せるのかな。そうしていつか俺のことなんて忘れてしまうのかな。いや、それでいいんだ。君は俺のことなんて忘れてしまってほしい。こんな苦しい恋の記憶を引き継ぐことなんてもう二度と嫌なんだ。俺達の恋はいつの時代もどんな場所でもいつも不幸な結末で、必ず君は悲惨に死んで行ってしまうんだ。俺はふとした瞬間に君の最後を思い出してしまってトイレに駆け込んで胃の中のものを全部吐きだすくらいに。夜に酷い悪夢にうなされるくらいに。それくらい残酷な死に方ばかりだ。君が死ぬ原因は俺でもあるし、他の誰かのせいでもあるけれど、もう、そんな君をもう見ていたくない。
俺が君を愛しているんだと気が付いたとき、君を抱きしめたら君はもうとっくに死にかけていて、内臓が生きたままドロドロに溶けながらそれでも死にきれずに苦しそうにでも俺に優しく笑いかけながら愛してるなんてささやいて死んでいくんだ。顔は赤く膨れて表情を作ることさえ激しく痛むだろうにそんなことを微塵も感じさせずに。その原因が俺が君に与えた毒からなんだ。そんな夢を俺は毎晩見るんだよ。
全部俺達が恋をするから君が無残に死んでいくんだ。俺が君を愛して、君も俺を愛するからなんだ。とても信じられないだろう、こんな悲劇的な皮肉がどこにあるんだってさ。

何が悪いんだろうね。俺は、俺たちはどうしたら幸せになれたんだろう。そんなことばかり考えた結果がこれだった。俺はもう君に会わない。ごめん。たぶん君が俺に対する恨みとか憎しみとか、俺が消えたくらいじゃあ簡単に消えてくれないだろうけれど、ごめん。


君と出会えてよかった。
ありがとう。


さよなら。


君がよく眠れますように。 








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