夏の終わりの向日葵のこと |
静雄くんの病室の窓には向日葵の花が置いてあった。作り物みたいに黄色いそれは自然のものみたいに少し枯れかけていて、そうして重たげに俯いていた。つんとした消毒液の匂いを僕は吸い込む。 僕の友人でそして親愛なる化け物である彼はぼんやりと外を見ていた。あるいは向日葵を見ていた。彼の両手には堅そうなコルセットがあって、そうして、申し訳程度におでこにガーゼが貼ってある。まだ、一昨日のことだから。僕は一人心の中で思う。だから、まだ、こんなに痛そうに見えるだけだと。 「やあ、静雄くん、久しぶり」 静雄くんは面倒臭そうに僕の方に顔を向けた。ちょっと疲れたみたいな目をしていた。 「なんだよ、新羅。また来たのか」 そんな言葉とは裏腹に声には嬉しそうな響きが含まれている。一人で暇だったんだろう。いつも来る弟くんはまだ来ていないようだった。 「うん。これ、学校のプリント」 ランドセルの中から取り出した紙を僕は静雄くんに手渡す。算数と漢字のプリントが宿題だったけれど、それを期限までに静雄くんが先生に提出するのは無理だろうなと僕は思った。思いながら、彼に手渡した。 「ありがとう、新羅」 無邪気に笑う静雄くんを見て、彼は僕の行為の裏側にあるものを何もかも知っているように感じるときがたまにある。 「どういたしまして」 友達は大切にしなければならない、そういっていた彼女の言葉を思い出す。大切にすることがよくわからない僕はいつもどうしようもない感情をもって静雄くんに接することしかできない。 放課後の時間は前まではずっと彼女と一緒だった。今は違う。今はその時間を切り取って僕の“友達”のために使っている。それはとても良いことだ。良いことのはずだ。だって、彼女は喜んでいるんだから。 「いつも、ごめんな」 ちょっと申し訳なさそうに、顔を俯けた静雄くんは、隣の向日葵みたいだと僕は思った。 「ううん。平気だよ」 僕は笑顔を向ける。 静雄くんが具体的な言葉を見つけてしまうまで、僕はこのままであったらいいなと、そんなひどいことを願っている。 一人ぼっちが怖い子供とそれを知っているだけの子供 小説top |