第二印象 |
妙なものを見た。 遊びに行った帰りとして門田は電車に乗っていた。友人とは駅で別れていたために、電車には一人で乗りこんだ。 池袋方面へ向かうそれは適度にこんでいて、あたりを見回しても空席は見当たらなかったが、少し離れたところに見知った人物が座っているのを見た。 ――あれは、平和島静雄? いつも見慣れた制服ではなく、普段着なのだろう、Tシャツとジーパンを着ていた。しかし、泥がこびりついたり、ほつれていたり、あるいは黒っぽく焦げ跡がついている。そして何より、服で隠れた以外のところに何本かの赤い切り傷が見えた。どう考えても普通の人間の格好ではない。それで門田は噂を思い出す。どうやらやはり、池袋の喧嘩人形と言われる平和島静雄は休日も相変わらず喧嘩を繰り広げているらしい。疲れたのだろうか静雄は深々と座席に座り込んでいた。 自分も相当の喧嘩をしているつもりだが、さすがに休日をつぶしてまでだれかと喧嘩をしたいとまでは思ったことはない。平和島静雄について門田が知っていることは少なかったが、少なくともその内の一つである噂は正しかったことが証明された。 しかし、なぜあんなぼろぼろの状態で電車に乗っているのだろう。わざわざ遠出してまで喧嘩をしに行ったのだろうか。そう不思議に思っていると、次の駅について、人が乗り込んでくる。そんなに降りる人がおらず、そうして乗り込む人ばかりだから途端に電車の中は狭苦しくなってきた。まだ、満員というほどではなかったが。 人に押される形で、静雄から視線が離れた。奥の方へ体を寄せる。こういう時、身長があると不便だとつくづく思う。体が大きすぎて邪魔だ。 それから、また、静雄の方をちらりと見やると、その座席には別の老人が座っていた。 え、と驚きのままその周囲に視線をめぐらすと、少し離れたドアのあたりに金髪が見えた。門田のほうには背中しか見えなかったが、ぼんやりと窓から外を眺めている様子だった。 あいつだって、疲れているはずなのに。 その行動に、今までの印象との齟齬があって、門田は静雄という人間が分からなくなる。休日まで喧嘩に明け暮れるようなやつが、他人に席を譲るのか。 門田はもう一度、静雄に目を向けた。ドアにもたれかかっている、その背中は不思議とまっすぐに伸びているように思えた。 理由→臨也を追いかけていたから 小説top |