消毒してあげる



最近、兄貴は怪我をすることが多くなった。



「いつもすまねえな、幽」

今日は腕をまっすぐ一直線に切られているのと、他に数か所突き刺された傷があった。あまり深くは切られていなかったのだろう、家に帰ってきたときにはもうほとんど血も止まっていた。罰の悪そうな顔をして兄貴は俺に腕を差し出す。喧嘩で出来た怪我に包帯を巻くのはいつも俺の仕事だ。

「いいよ、これくらい」

消毒液をかけて、そうして深く刺されたところには絆創膏を貼りつける。



兄貴が怪我をするのは喜ばしいことじゃないけれど、すごく嫌なわけじゃない。
なぜならこの時だけは、俺と兄貴は兄弟だって思うことができるから。「似てないね」と事あるごとに言われる俺たちの絆だから。
優しく腕を持ち、そっと包帯を巻く。そんなことを小学生の時から続けているのでもう結構上手くできるようになったと思う。

けれど、最近増えた傷はただの喧嘩で出来た傷ではないように思える。
鋭い刃物でバッサリと切られた、同じような傷ばかり。
そうして俺は、その傷には醜い執着のような、あるいは憎悪のような、酷く汚いものが付着しているように見えてならなかった。



「いッ……」

消毒液がしみたのだろうか、小さく堪えた声が兄貴の口から洩れる。

「ごめんね、兄貴、」

俺の小さな爪で引っ掻いたところで傷をつけることはかなわない、その柔らかな白い肌の、傷についた汚れた感情は、全部、全部消毒してあげるから。


だから、痛くしてごめんね。








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