目覚めれば、見覚えのない天井。ちょうど当たる陽の光が、寝起きの目には少しまぶしい。上体を起こし目を細めながらも辺りを見回す。染みの目立つ天井、穴が空いたり塗装がはげたりしている壁、ところどころ抜けそうな床。一体、どこなんだここは。

「目え覚めたか」

声のする方向に体を向ければ、黒髪の目付きの悪い男の人が腕を組みながら立っていた。その様子に、昨日の出来事を思い出す。「ああ!昨日の!」男の人に人差し指をさせば、突然の私の大声にびくりと肩を震わせた。

「いきなりでかい声出すんじゃねえ!アホか!」
「あっ、ごめんなさい」
「ったく。めんどくさいやつ拾っちまった」

私よりも倍以上大きな声で怒鳴り返してきた男の人は、謝った私に対しても不機嫌さを隠すことなく言い放った。男の人はつかつかとベッドに近寄り、見下すように私を睨んでいる。男の人すごく怖い顔をしているはずなのだけれど、なぜだか恐怖は全く湧かなかった。

「家はどこだ?」
「…ありません。お父さんもお母さんもいないんです」

私の返答に大して驚く様子もなく、男の人は「そうか」と言っただけだった。両親がいないのは本当。物心ついたころに、両親の姿はなかったのだ。帰る家…、帰るための施設はあるけれど、私はそれを隠した。政府の用意した施設が嫌いだった。施設の職員は、親のいない子供を見下したように扱う嫌なやつばっかりだったのだ。だから、嘘をついたなんて思わない。あそこは私の家なんかじゃないから。静まった部屋に多少の気まずさを感じながら、私はベッドから降りてぺこりと頭を下げた。

「昨日は助けてくれて、ありがとうございました」
「…べつに、気にするな」

ぶっきらぼうに言う男の人は、少し照れたように顔を背けた。昨日走りながら見た背中はとても大きく感じたのに、今改めて見れば思っていたよりも小さい。身長も、私より目線が幾分か高いくらい。そんなに大きくない体で、あの大人を投げ飛ばしたなんて。

「私、みょうじなまえって言います。」
「…俺は、リヴァイだ」

私を助けてくれた男の人は、リヴァイ。と名乗った。それからうっすらと笑みを浮かべ、ぽんと私の頭を撫でた。その動作に、なぜかお父さんの顔がちらつく。

「私、ここに住んじゃダメですか?」
「はあ?何言ってんだ」
「お願いします!迷惑はかけないから!」

直感だった。この人ならきっと、私を置いていかない。そう思ったらときにはもう、口は動いていた。見上げるような形で、リヴァイをじっと見つめる。口をぽかんとあけたリヴァイは、心底驚いているようだ。けれどすぐにさっきみたいな怖い目付きになって、その薄い唇をうごかした。

「…好きにしろ」

疲れきったようにため息を吐いて、リヴァイは部屋を出て行った。ベッドサイドのテーブルには、いつのまに置かれていたのだろう、パンとコップ1杯の水がのっていた。リヴァイって優しいんだなあなんて考えながらパンを一口食めば、すごく固くて噛みきれなかった。

(すいませーん!このパンどうやって食べればいいんですかー!)



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bkm
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