施設での暮らしは、毎日が繰り返しだった。同じ時間に起きて、同じ時間に食事をとり、同じ時間に寝る。自由な行動は許されず、聞かされる情報は全て政府に関することのみ。だから私は施設が、大人が、大嫌いだった。

「みょうじなまえ、起床の時間だ」

それでもまた今日も、昨日を繰り返すのだ。


リヴァイと離れてから半年が経つ。短いようで、とてつもなく長い時間だった。小高い丘に寝転がりながら、ふと数時間前の出来事を思い出す。



「調査兵団に入るなんて、馬鹿なやつだけだ」

私は以前から気になっていた調査兵団のことを職員に聞いた。すると職員はそう言ったのだ。それも、蔑むような眼差しで。

「税金を使って壁外に行って、何の成果もなく無駄に死亡者を増やす。これを馬鹿以外になんて言えばいい?」

心底楽しそうに、職員は話し続ける。にやにや笑う顔を殴り倒したくなった。イライラと感情ばかりが先走る。私は半ば叫ぶように反論し施設から逃げだした。

「リヴァイは、馬鹿なんかじゃない!」



施設から走り続け、たどり着いた場所がこの小さな丘だった。そよそよと風によって揺れる葉は、私の心を落ち着かせる。職員が調査兵団を、リヴァイを馬鹿にしたことが許せなかった。壁にこもったままでは、何も変わらないことを彼はわからないのだろうか。

「戦うことが、必要ないわけがないじゃない」

ぼそりと呟いた直後、ドオンと地響きに近い音がなった。驚いた私は体を起こし辺りを見渡す。しかし周辺に変化は見当たらない。ふと前方を見れば、言葉が出なかった。なぜなら人類の砦である屈強な、50メートルを越える壁から「なにか」が覗いていたのだ。一体今何が起きているのか、理解が追い付かない。しかし「それ」はゆっくりと姿を表した。

「あれは巨人、なの?」

大きな口に皮膚の少ない、真っ赤な顔。私の知る巨人とはかけ離れた容姿だった。ゆらりと巨人が動く。瞬間、大きな音とともに大量の瓦礫が宙をまった。壁が壊された、と理解するのに大した時間はかからない。再び大きな音をたて、瓦礫は町の至る場所に落ちていく。今の時間は昼過ぎ。施設にいればちょうど食堂で昼食の時間だ。頭にはたくさんの子どもが机に並び、食事をする姿が浮かぶ。もしも、本当にもしも、瓦礫が施設にぶつかってしまったら。悪い予感がする。気がつけば私は駆け出していた。大きく空いた穴から、巨人が侵入を始めていたなんて知りもせずに。

息が切れる。足がもつれる。叫び声が聞こえる。たびたび視界に入る町の惨状に、悪い想像が膨れるばかりだ。あと少し、この坂を登れば。

「みん、な」

見渡せばそこには、地獄のような光景が広がっていた。それは私が想像していたものよりも恐ろしく惨いもので。小さく溢れた言葉は、誰の耳にも届いていないだろう。




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