2015/01/31
today's sweets

today's sweets



「今日からバイトに入ってもらう……」
「仁王です、よろしくお願いします」

よくまあ、こんな外見でバイトの面接通ったなって思った。人のこと言えないけどさ。



「仁王君」

銀髪で、後ろ髪を束ねている仁王に声をかけた。いや、かけなければならなかった。
店長にバイトについて教えてやってほしいと頼まれたからだ。

「仁王でええよ」
「えっ」
「年齢そんな変わらんじゃろ」
「……タメだけど」
「なら仁王って呼んで」

ブン太が仁王の流れに上手く誘導されて、仁王、と呼ぶと、何?と普通にタメ口で返された。
ブン太は去年、このお店にパティシエのバイトとして雇われている。たった1年前に雇われているだけだが、仁王のこの態度がなぜか気に入らない。可愛い後輩じゃないからかもしれない。

「商品覚えてもらいたいんだけど」
「それならとっくに覚えたぜよ」
「はあ?」

思いっきり眉間にしわを寄せると、仁王は面白そうにケラケラと笑う。

「試してみるか?」
「……自信あるならいいよ。あとは日持ちと値段と……」
「おいおい、俺が試してみるかって自分から言っている時点で、商品ってのはそこまで覚えてるってわからん?」

……こいつ、すげーやだ。

「じゃあ、あとはレジの打ち方と包装の仕方だな」

さすがに、仁王はそこまではわかっていないらしく、何も言わずにブン太の後ろについて来る。
レジなんて販売業をやっていればある程度わかるかもしれないが、ケーキ屋さんには季節もの等があるからその店のルールがあるわけだし、仁王が口を出さないのは至極当然のことだ。

一通り、教え終わると、仁王の今日のバイト時間が終わる頃だった。

「帰っていいぜ」
「お前さんは?」
「俺はまだバイト時間残ってるから」
「ふーん」
「せっかくだし、季節限定の何か食べてみれば?」
「あんま甘いの好きじゃないんよね」

本当にこいつ、やだ。

仁王が帰ると、近くにいたバイトの女子たちが一斉にブン太に群がる。

「ねえ、仁王君って丸井君とタメなの?」
「らしいッス」
「彼女とかいるんですかね〜?」
「どうなんだろうなあ」

完全に狙ってる。
恋に色めき立つ女は怖いから、仕事が残ってると言って、その場から逃げた。




仁王の外見はアレだが、仕事はそつなくこなした。バイト中は黒髪のウィッグを被るという用意周到さで。
バイトの女子たちは、少しでも気に入られようと仁王に優しいし、店長も仁王の働きぶりに感心していた。
気に入らないのは自分だけだ。

「丸井」
「何?」
「それ、新商品?」
「そう。季節限定のやつ。俺が考えてみてもいいって」
「丸井はパティシエになりたいん?」
「……まあな」
「ふーん」

なんだその返事は。
更衣室で、新商品のアイディアが描いてある紙をいくつか机の上に並べて考えていたら後ろから声をかけられた。
ブン太が仁王を見上げると、仁王はにやっと笑う。

「似合っとるな」
「……!」

もしかして、このいやらしい笑い方は、仁王の通常の笑い方なのかもしれない。
このいやらしい笑みに、ずっとバカにされた気がしていた。もしかしたら、もしかしたら、仁王は本当はいい奴なのかもしれない。

「……サンキュ」
「子供っぽいケーキ考えとるあたりお似合いじゃよ」
「……やっぽお前はそういう奴だよな」 

ブン太は、ふうっと溜め息をついて、紙をファイルの中に入れ、着替え始めた。

「なあ、俺たちどっかで会ったことない?」
「知らねーよ」
「やっぱまだ駄目かの……」

仁王はぼそりと呟いて、黒髪のウィッグを外した。




新商品は、自分のアイディアを全て取り入れられたわけではなかったが、自分の思うようなものに仕上がった。

「これなら俺も食べられるのう」

少し甘さ控えめなものになったのは、仁王の影響が強い。
新商品の売れ行きは、いい感じらしく、店長も上機嫌だった。

「美味い?」
「お世辞なく」
「そっか」

素直に褒められて、自然と笑みがこぼれた。仁王は、こっちが笑ったのを物珍しそうな顔で見ている。
最近、仁王のキャラにもやっと慣れてきたような気がする。

「今日もシクヨロ!」
「はいはい」

背中をばんっと叩くと、仁王は、少し痛そうな顔をしながら、レジの方へ向かった。

今日の分を作り終えて、なんとなく外に出ると、仁王が植物に水をやっていた。
仁王のバイトの時間はまだ終わっていないはずなのに、ウィッグも蝶ネクタイも外していた。休憩時間なのだろうか。きっとこういう姿に女はメロメロなんだ。

「もう終わり?」
「うん」
「……この後暇?」
「へ?」
「たまには一緒に帰らんかなーって」

珍しい誘いだった。誰の誘いにも一切応じない仁王が、まさか自分を誘ってくるだなんて思いもよらなかった。
ちょっとした好奇心にかられた。

「いいよ。バイト何時まで?」
「んーあと1時間かのう」
「わかった待ってるよ」

ブン太がそう言うと、仁王は再び植物に水をやり始めた。

「お待たせ」

待ち時間は、更衣室で専門学校の課題をやって過ごした。
仁王が支度を終えて、2人で店を出た。すでに日は沈んで、空は星でいっぱいだった。

「夕飯どうする?お前一人暮らし?」
「そうじゃよ。うーん、ファミレスかのう」
「近くのファミレス、期間限定のパフェあるよな!」
「好きじゃのう……」
「決まりな!」

ファミレスまであともう少しのところで、仁王の足が止まった。なんだろうと思いつつ、ブン太も止まった。仁王の表情がちょっと暗い気がするのは気のせいだろうか。仁王は、ゆっくり口を動かした。

「なあ、丸井、覚えとらん?俺のこと」
「またそれかよ」
「本当に?」
「……うん」
「さよか……こんなに目立つ髪型なら目に焼き付くんじゃないかなって思ったんじゃが」
「どういうこと?」
「バイト先をここにしたのは、丸井が働いているからじゃよ」

ブン太は、目を瞬かせた。

「……どういう?」
「あそこの店、常連なんよ」
「常連?」
「そう。親が気に入っててのう」

仁王の話の続きはこうだった。
母親に頼まれてお店に行ったら、たまたま赤髪の男の子がレジをしてくれて、その髪の色が印象に残って忘れられず、何度も通ったと。単純な興味だったらしい。
それから、レジに現れなくなったその男の子は何をしているのかと思っていたら、お店の奥で、お菓子を作っていると店長から聞き、様子を見させてもらった。
レジの時の男の子は、向日葵が咲いたかのような明るい笑顔で接客していたのに対し、奥でお菓子を作っている姿は、真剣そのものですっかり気になる対象になってしまったと。

「で、どんなやつか探るためにバイトに応募したってことか」
「ご名答」
「探偵みてえだな、お前」
「ありがとさん」
「褒めてねえ」
「やっぱ、覚えてないもんなんやの」
「男性客もいるしなあ」
「ふーん」

こんな外見で雇ってもらえるのもきっと常連だったからに違いないなと、ブン太は改めて思うのだった。

「のう、丸井」
「ん?」
「お前さんのこともっと教えてくれん?」
「お前こそ、教えてくれたっていいんじゃね?」
「もう嫌いじゃないんか」
「……!?」
「あんなにあからさまな態度とられたらわかるぜよ」

仁王はちょっと困ったように笑った。少なくとも気に入っている人に嫌われるのは、ショックだったに違いない。

「まあ、今となってはええんやけど」
「そろそろ中入んねえ?」
「中でたっぷり話そうかの」
「気の済むまでどうぞ」
「プリッ」
「……何でこいつがモテんだよ」
「ん、嫉妬?」
「違えし!!!」

自分でもムキになっているのがわかる。仁王といると何でか調子が狂う。

「早く行こうぜ」


このドアを開けたら、また違う仁王の一面が見られるのかなと、変に楽しみにしている自分がいた。


(●^o^●)
よおちゃんより、ケーキ屋さんでバイトをしている2人です。
パロディっていいですよねえええ!書いていてすごく楽しかったです///
このあと、きっと2人は結ばれることでしょう!

リクエスト、ありがとうございました〜!







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