2014/12/04
ぬくもり
「誕生日、おめでと」
そう、ブン太が仁王に面と向かって言えたのは、放課後の帰り道だった。
今日は仁王の誕生日。0時ピッタリにメールも電話もブン太はしなかった。というよりもむしろ、することができなかったと言った方が正しいのかもしれない。
「明日は泊まってくんじゃろ?」
事の発端は、昨日、体育の授業の真っ最中。ブン太が1人で休憩している隣に、仁王は何気なくやってきて、さらりと言ってきたのだった。
「……」
ブン太は、仁王の言葉に一瞬目を丸くしたものの、返す言葉に困ったのか頷くだけだった。
逆サプライズかよ!?
内心ではそう思いながら。
仁王の半ば強引な問いかけに応じたブン太は、家に帰ってから焦って次の日の用意をすることになり、気づけば日付が次の日になってしまっていたのである。
「あんがとさん」
プレゼントはまだ渡していないにもかかわらず、仁王はブン太のその言葉ですでに満足しているかのように見えた。根拠はない。
「なあ、仁王」
「んー?」
「何で昨日、泊まれなんて言ったんだよ」
「泊まれなんていうとらん。泊まってくんじゃろ?って言ったんよ」
「何が違うんだよ……」
「そうやの、簡単に言えば……」
仁王は空を見上げて、うーんと考え始めた。
「ブン太は一緒に、誕生日を過ごしてくれるんじゃろ?って。今日は平日じゃし」
「泊まるとか関係ないじゃん」
仁王は、困ったように笑った。
「泊まるって決めたんはブンちゃんぜよ」
「そりゃそうだけど……」
「誘導したんはこっちじゃがの」
ブン太が仁王を見上げると、いつものいやらしい笑みを浮かべていた。どうやらまたペテンに引っかかったらしい。
「ブン太が、誕生日にいっぱい一緒にいてくれたらなってな」
こんなに的確に爆弾発言をしてくる仁王に、ブン太はいつも反応に困っている。
こういう時に限って、仁王は優しい顔をブン太に見せてくるもんだから、不覚にも、
格好良いな
と思ってしまうのだ。
「もう少しじゃな」
「そうだな」
付き合ってからも全貌のみえない仁王。
沈みかけた夕日のオレンジと夜の支配する紺が混ざり合った空は、今の仁王にどこか似ている気がした。
仁王の家に着いてからは、時間があっという間だった。楽しいとき、時間の流れはいつもはやい。
「あー!!!また負けた!」
「1度も勝ててなかよ?」
両手に持っていたトランプを、ブン太がぱっと離すとばらばらとトランプが散らばる。
仁王は、そのトランプたちを1枚1枚拾って1つにまとめていく。ブン太は、無意識に仁王の手の動きを目で追いかけた。自分とは違う、細くて長くて骨ばった指を、羨ましく思っているのだ。
仁王がトランプを1つにまとめて、時計を確認した。
「もうこんな時間じゃし、寝る?」
「ちょ、ちょっと待って!」
ブン太が自分の鞄から、プレゼントを取り出した。
「仁王、お誕生日おめでとう」
プレゼントを受け取ると、仁王は嬉しそうに開けてもいいかとブン太に聞いてきた。
ブン太は、好きにしろいとだけ言って、仁王のベッドに潜り込んだ。
仁王はがさごそとプレゼントの中身を確認して、何も反応もせずにすぐにベッドに入った。
やっぱり今日の仁王は可笑しい。いつもならすでに何らかのアクションがあっても良いはずだ。
と思ったのは一瞬で、すぐにそのアクションは起こされた。
「うれしいぜよ」
壁側を向いて横になっているブン太を、仁王が後ろから抱きしめて、耳元で囁いてきた。この近距離に耐えられる女なんているのだろうか。
まだ、明かりは点いたまま。表情は全て見えてしまう。ブン太は振り返らずに、
「よかった」
とだけ言った。
仁王はそれ以上何も言うことはなく、ただ、ブン太を優しく抱きしめている。
本当に、このまま寝てしまうのだろうか。
ブン太は、近くにあったリモコンを手に取り、明かりを消した。
「……仁王」
「まだ起きとったん?」
「ん、まあな」
あまりにも仁王が大人しすぎて、ブン太はかえって眠ることができなかった。
寝返りを打とうとすると、仁王がブン太の体に乗せていた手をさりげなく離したので、起きていることがわかった。
名前を呼べば、起きていたのか、だなんて言われて、ブン太は仁王が不思議でおかしくてたまらない。
「お前こそ、寝たんじゃねえのかよ」
問いかけに応じることなく、仁王は、さっきブン太の体に乗せていた手で、ブン太の頬に触れる。
その手はすごく、あたたかかくて、優しかった。本当は眠いのかもしれない。表情は窺えないが。
「……仁王?」
「ブンちゃんのほっぺ、ぷにぷにじゃ」
「仁王のは潤いがないよな」
「ひどっ!」
「乾燥してる」
仁王に対抗してブン太も仁王の頬をつまんだ。
今、仁王はどんな表情をしているのだろうとブン太が思っていると、少し控えめな声で仁王が話しかけてくる。
「……のう、ブン太、離してええよ」
「何で?」
自分はずっと手を離さないで優しく撫でているのに?
「我慢できなくなる」
「しなくていいじゃん」
「……」
困ったような溜息が、静かな部屋に響く。
「大人になろうと思ったんじゃがのう」
「大人なんて欲だらけじゃん?」
「……かもしれんの」
仁王の手はブン太の頭へと移動する。大切なものを扱っているとわかるような、そんな手つきで、仁王はブン太の頭を撫でてくる。
「一緒にいてくれてありがとう」
手も声もきっと表情も、何もかも優しい。
「今日の仁王はどこかおセンチさんだな」
ブン太がわざとからかってみても、今日の仁王には響かないらしい。仁王は苦笑している。
「ブン太、好いとうよ」
暗がりではっきりとは見えない仁王の表情。それでも、目が慣れてきたのか、ぼんやりと優しい顔をしているのがブン太にはわかった。
おセンチとかそんなんじゃなくて、もしかしたら、ただの甘えたいだけなのかもしれないな。
「俺も、好き」
誕生日を迎えてはじめての愛の言葉を仁王に告げた。
その言葉に、頭を撫でる仁王の手が、ぴたりと止まる。どうやら仁王も限界らしい。
「触れてもええ?」
「……好きにしろい」
「もう我慢せんよ」
「いいぜ、来いよ」
この手にもっと触れられていたい
そう思っちゃったんだ。
今日の仁王の手は、すごく、あたたかかった。
(●^o^●)
リクエストはラブラブニオブン話でした!
コメントの中に仁王の誕生日について触れられていたので、1番最初に書かせていただきました〜!
いかがだったでしょうか?ラブラブしていたでしょうか///?
リクエストをいただき、ありがとうございました(*^v^*)