さあ、
ざあ、
緑が揺れた。
ただっ広い野原のだいたい真ん中に俺は立っていて、足元の草の青さからあいつと別れてもう一年が過ぎたことを知る。
苦しいくらいの青臭さに、鼻の奥がツンと痛んだ。
東京を離れて田舎町へと引っ越した俺を、誰かは覚えているだろうか。
鳴らない携帯電話を握り締めて下らない思考に耽る。あの頃の俺達はただまっすぐで、大人の手によって曲げられることを酷く嫌った。
今はテレビでしか見えない姿と聞こえない声。
こんなにも寂しいものだったなんて、俺はまだ信じたくない。
「あいつは、頑張ってるのに」
俺は今何をしているのだろうか。目標を持たず、灰色の日々を送る毎日。あの輝いていた季節に、もう二度と戻れないのか。戻りたい気持ちと目を逸らしたい感情がごちゃまぜになって、結局はまた灰色の生活。
目の前の草はあんなに綺麗なのに、俺の水晶体は濁ったままだ。
三日前、久々に送った短いメールへの返事が届くことは無かった。ただ一言元気かと、テレビ越しに呟くのはもう嫌だった。
(携帯、没収されてたりして、な)
それが自分への精一杯の慰めだなんて気付いていても。
「…ここにいた」
ふわり、と。
包まれた体温はあの頃と変わってはいなくて、なんでここに、とか試合はどうした、とか
そんな疑問を吹っ飛ばして、俺は泣いた。
元気ですか、
逢いたいです。
「か、ぜ、まる…っ」
「うん、うん…」
「う、っふ、あ、あい、あいたかっ…た…!」
「俺もだ、なまえ、俺も」
「、っメー、ル」
「見たよ。だから、返事しに来た」
「バカじゃねぇ、の」
「はは。なぁ、好きだ、なまえ」