※捏造
※暗いというか微妙にホラーに(すみません)

 そこは、まるで霧の中だった。視界が悪く、数メートル先を見ることすら難しい。自分がいる場所すら分からない。

(どこなんだ、ここは)

 辺りを見渡すが、薄暗さに目が慣れておらず、何も見ることが出来ない。とりあえず歩いてみると、自分の足音がやけに響いた。
 剣城はこの空間の現実味の無さに、これは夢なんじゃないかと思い始めていた。実際のところ、そうでないと説明がつきそうにない。正直夢の中で夢だと思うのもおかしな話だとは思うのだが。

「つーるーぎー!」

 突然、この空間に似合わぬ陽気な声が響いた。声の方向は分からないが、持ち主は誰か分かった。黄名子か、と大きめの声で呼びかけると、パタパタと忙しない足音が近付いてくる。

「剣城、やーっと見つけたやんね!」

 どすんっ、と後ろから突撃され、剣城は前によろけた。元気が有り余っているのだろうか。だが今のは腰によろしくない。

「お前な……。身長差を考えろ」
「それ、うちが小さいって言いたいの?」
「そういう訳じゃない」

 黄名子が拗ねる様子を見せるので、一応弁解はしておいた。ここまでなら、周囲の状況を除けばおかしい事は無い。しかし、黄名子がジャージの裾を掴んだままなのが気になった。彼女も風船がしぼんだように急に大人しくなっている。違和感にざわざわと胸がざわめいた。

「何か、あったのか」
「別に、何かあったって訳じゃないやんね。ただ、」
「ただ?」
「うーん……やっぱいいやんね。剣城の顔見れたし満足!」
「なっ、」

 そんな勝手な話があるか!
 これは心配した自分が馬鹿だったのか、と頭を抑えたくなった。だが、違和感は相変わらず取れない。ふと黄名子を見ると、既に剣城から離れて、どこかへ行こうとしていた。

「じ……ね、……ぎ」

 声が途切れ途切れにしか聞こえない。彼女の口は、しっかりと動いているというのに。何故だ。

「黄名、子」

 手を振り、剣城に背を向けて黄名子が走り出す。足音も聞こえない。嫌な予感がした。
 何とも言い難い焦りに駆られて、思わず彼女を追いかけた。直ぐに追いかけた筈なのに、背中も、あの長い髪も視界に捉えることは無く。

「……どう、いう」

 そこには、彼女のジャージとユニフォーム、シューズが地面に転がっているだけだった。鼓動は速くなって、呼吸が浅くなる。何故、どうして、何が。言葉が上手く繋がらない。
 途端に、フェイの言葉が頭の中で幾度となくリピートされた。

『彼女は、菜花黄名子は、タイムパラドックスが生み出した存在だろうね』
『本当なら君達と出会うことは無かったはず』
『もしかしたら、消えてしまうかもしれない』
『消えてしまう』
『消える』

 消える?
 視界にノイズが走った。
 消えるなんて、そんな馬鹿な。そうだとしても、突然すぎるだろう。まだ、サッカーを取り戻してない。まだ、何も成し遂げてない。地面に転がる彼女のそれに手を伸ばしかけて、視界が全て砂嵐で埋まった。

20121223

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