高校生の食欲はかなり旺盛だ。お昼休みには、男子生徒が購買のパンを死守するために教室から凄い勢いで飛び出して行く姿がよく見られる。私の食欲は男子生徒ほどではなくとも、やはりお腹がすくお年頃だ。体重が気になる所だが、欲には勝てない。3限目の授業が終わると同時に、お気に入りのスクールバッグを漁って箱に入ったお菓子を取り出す。コンビニで買った期間限定のこのお菓子は前々から気になっていたものだった。


(焼きチョコ…前から気になってたんだよね。友達も美味しいって絶賛してたし)


丁寧に包装をはがして一口食べてみると、中はしっとり外はサクサクという不思議な食感と、チョコレートの甘さが口の中に広がった。


「んー!美味しい、焼きチョコは当たりだー」

「なまえ…また菓子を食しているのか?」

「うっ…わぁ!?一君?びっくりした、急に背後に立たないでよ」


いきなり声を掛けられ、後ろを振り替えると呆れた顔の一君が立っていた。どうやら彼は、私に部活のスケジュールが書いたプリントを届けに来てくれたらしい。私と一君は同じ剣道部に所属しているため、こういった事は少なくない。


「うわ、練習試合ばっかりだ。今月はハードだなー」

「体調管理だけはしっかりしておけ。大切な期間だからな」

「はーい。あ、一君も食べる?」

「チョコレート、か?」

「焼きチョコって言って、夏でも溶けないチョコなの。はい、あーん」


一君がチョコに興味を持ったので、一つ手に取った焼きチョコをそのまま彼の口元に持っていく。が、一君は私の行動にひどく驚いた様子で目を僅かに見開いていた。え、私…何か変な事した?


「一君、もしかしてチョコ嫌い?」

「…そのような訳ではなく、」

「もう、食べるの食べないの?あーん!」

「っ…なまえ、もう喋るな」

「むぐっ」


いきなり怒られたかと思ったら、彼は私の手にあった焼きチョコを奪い取った。ぽかんとしていると、口の中に無理やりチョコを放り込まれる。ちょ、一君の指先も一緒に口に入った気がしたんだけど。まあいいか。よくよく考えると、私に食べさせるって事は…あれ、やっぱりチョコ嫌いだったのかな。モグモグとチョコを食べながら彼の顔色を窺うと、真っ赤に染まっていて。…ん?


「す、すまない…!」

「ああ、指のこと?良いよーそういうの気にしないし」

「………しかし、」

「それは置いといて、一君、さっきから顔が赤いけど…具合悪いの?保健室行こうか」

「なっ!」

「…え、待ってよ一君、本当にどうしたの!」

「何ともない…。気にするな」


私に背を向けた彼は、真っ赤な顔のまま足早に教室を出ていってしまった。本気で一君が分からない…一体何なんだろう。


ほっぺの赤い理由


「なまえちゃんは鈍感だなあ、一君はあーんが恥ずかしかったんだよ」

「総司、今までのやり取り見てたの!?」

「君の口の中に指を入れるなんて一君もやるね」

「あれは事故なの!やらしい言い方するな!」


title 略奪