私はよく色々な人から尋ねられる。“王子となまえさんはどういった関係なんですか”と。そんなこと聞かれても、私は曖昧に笑って誤魔化すしか出来ない。逆に私の方が“貴方達には私達がどう見えるのですか”と聞いてやりたいくらいだ。正直、私自身もミストガンとどういう関係なのか分からない。輪郭がはっきりしないままの関係としか言えないのだ。


ココアを飲みながら、パジャマ姿の私はエルザの部屋でのんびりしていた。今夜はエルザとお喋りをするためだけに此処に居る。アースランドのエルザも面倒見が良かったが、エドラスのエルザも何だかんだ言って世話好きだ。ミストガンが国を纏める前までは、エルザは敵だったのに。今では心強い見方だ。


「ねえ、エルザは恋をしたことがある?」

「なっ…なんだ唐突に」

「人を好きになる感情ってどんな感じ?」

「まさか…気になる男でも出来たのか?」

「違うけど…ミストガンと私の関係を聞かれても、うまく答えられないから。友達と恋人の境界線って何なんだろうなって」


そういえば、アースランドではエルザとジェラールは特別親しいように見えた。恋人だったのかは分からないけど。


「…私は今まで、生きるために戦う事しかしてこなかったからな。生憎、そんなものに時間を割いている時間など無かった」

「そっか…そうだよね。ごめんなさい、変な話して」


恋愛初心者の私には、恋だなんてまだ早い話だったのかもしれない。恋人は手を繋いで町を歩いたり、抱き合ってキスをしたりする。ミストガンはよく私を抱き締めるけれど、アースランドのナツだって私に抱きつくのは日常茶飯事だった。恋人ではないけど、そうする事が普通だと思っていたし、別に皆も咎めない。


「えいっ!」

「?どうしたんだ、急に抱きついたりして」

「んー…。エルザに抱きつくと、安心するんだよね」

「…全く、おかしな奴だ」


エルザは少しだけ表情を崩して私の頭を撫でてくれた。彼女のこういう所が好きだ。前までのエルザはピリピリと緊張感を張り巡らせていたのに、今ではすっかり丸くなった気がする。


「エルザには抱きつけるのに…ミストガンに抱きつくのは恥ずかしいの」

「なまえ?」

「ミストガンの姿を見られるだけで幸せだし、胸が苦しくなる」

「なまえ、それは…。いや、何でもない」

「…エルザ?」

「自分の気持ちに嘘をつなかければそれで良い。恋人だろうが友だろうが、根本的なものは変わらないからな」

「根本的なもの?」

「相手を大事に思う気持ちは恋人でも友でも同じだ」


ふわり、エルザの微笑む顔は相変わらず綺麗だった。