ざわざわと活気のある町の雰囲気は、結構好きだ。エドラスもようやく復興しつつあり、今では町も賑わいを見せている。私は両手で菓子類の入った紙袋を抱え、様々な店が並べられた通りを軽い足取りで歩く。たまには外に出るのも良いなあと考えながら、なまえは町で必要なものを調達している真っ最中だった。


「あとは本でしょ、それに歩きやすい靴かな。うーん…新しい味の紅茶も欲しいなあ」


お城の仕事をしているため、それなりに貯蓄はある。お城の部屋を貸してもらっている上に、必要最低限のものは既に部屋に揃っていた。生活に不便はないし、部屋を貸してもらえるだけでも有難いこの状況だ。申し訳なくて、お給料はいらないと言ったのだが毎月私の元へは十分過ぎる程のお金が振り込まれていた。


(いつまでも甘えている訳にはいかないし、そろそろ住む場所も探さないといけないな)


このままの生活をだらだらと続けていたら、きっとミストガンにだって迷惑がかかる。いつかはお城を出て、他に働く場所を見付けなければ。私がお城を離れれば、忙しいミストガンと会う機会も減ってしまうだろう。寂しいけれど、仕方がないことなんだ。






お城に帰ると、どことなく城内の雰囲気が違うように感じられた。皆そわそわして落ち着かない様子で、自分の居ない間に何かあったのは間違いなかった。


「あの…どうかしたんですか?」

「あっ、なまえさん。聞いてくださいよー!あの王子が、奥方を娶るらしいとの話があったんです」

「…え?」

「最近は色々な縁談話が出ていましたからね。王子もようやく身を固める決意をして下さったという事ですか」


メイドさんは嬉しそうに私に告げる。頭に冷水をぶちまけられた気分だった。――分かってたことなのに。何度かそういった話があったのは私でも知っている。けれど、私はこんなに早く話が進んでいたなんて予想外だった。いくらミストガンと仲が良くたって、所詮はそれだけの関係なんだ。今更驚く必要なんてない筈なのに。


「なまえさん?どうかされました?」

「あ、えっと…。ごめんなさい、少し驚いてしまって」


ぐるぐる、ぐるぐる。私の脳内はミストガンが結婚してしまうという衝撃事実ばかり。どうやって部屋に戻ってきたのかも覚えていない。何もする気が起きず、ベッドに寝転んで天井を見つめた。


せっかくミストガンと食べようと思って買ってきたお菓子も、こんな気持ちじゃ渡せない。結婚、か。私には一生縁のない話だ。ミストガンが私から離れていく。もう易々と触れあうことは出来ないし、このままお互いがお互いを忘れてしまう日が来るかもしれない。ミストガンと結婚する人はやっぱり綺麗で優しい人なのかな。あれ、視界がぼんやりと霞んで、うまく前が見えない。頬に違和感を感じて指を這わせると、そこは濡れていた。私、泣いてる?情けなくて涙を止めようと思うのに、ポロポロと滴は零れ落ちる。どうしてこんなに悲しいのかな。