ジェラール。私にとってその名前は、アースランド側の彼を連想させる。エドラスではミストガンもジェラールという名で呼ばれているのだが、私にとっては何だかしっくりこない。私にとってミストガンはミストガンで、アースランドのジェラールとは確かに顔は同じだが私の中では全くの別人だ。


「…なまえ、私の顔に何かついているのか?」

「……」

「そんなに見つめられてはやりずらいのだが…」

「うーん…同じ顔だけど、やっぱり違うなぁ」

「アースランドでのジェラールの事か?」

「そうだよ。ミストガンとジェラール、顔は同じだけど全然違う人だなって」


じーっと休憩中のミストガンを再び見つめれば、彼は困ったような顔をしていた。格好いいなあ。ちなみに私も今は休憩中で、ミストガンと一つのテーブルに向かい合わせになって座っている。テラスに置かれたテーブルにはぽかぽかとお日さまが当たって気持ちいいし、彼を誘った甲斐があったかもしれない。紅茶の香りとクッキーの甘い香りが混ざって鼻腔を刺激した。あ、このクッキー美味しい。


「ジェラール」

「……」

「ミストガン」

「…なまえ、私で遊んでいるのか」

「ねえ、どっちの名前で呼ばれる方がいい?こっちでは皆ミストガンをジェラールって呼ぶし、私もそうした方がいいのかな」

「いや、私はこのままで構わない」

「いいの?」


ミストガンがそう言うなら私は呼び方を変えたりしないけれど。二枚目のクッキーに手を付けながら幸せに浸っていると、私の向かいに座っている彼から視線を感じた。頬杖をついた彼は優しい目をしていて、どことなく嬉しそうだ。


「どうかしたのか?」

「え」

「顔が赤い」


か、顔が赤いって…。ミストガンがそんなに優しい目でこっちを見るからでしょう!反論してやりたい気持ちもあったが、彼があまりにも穏やかに笑うものだから、そんな事はどうでもよくなった。ミストガンが笑えば私の心の中がふわふわして温かくなる。この感情は何という名前なのだろう。


「ミストガン」

「何だ?」

「呼んでみただけ。こっちの世界でミストガンって呼ぶのは私だけだし、特別みたいで嬉しくて」

「……!」


聞いてるこっちが恥ずかしいって


途端にミストガンの顔が赤くなったのはなぜだろうか。私には分からなかった。