兄と妹という関係は、結構厄介だ。


『お兄ちゃん…、ダメ、私たち兄妹なのにっ』

『そんなもの関係ないよ。愛している、誰よりも』

『お兄ちゃん!私っ…』


…気まずい。楽しい夕飯時だというのに、兄さんも私も無言でただひたすらに箸を動かしておかずを口に放り込んでいる。たまたま着けたテレビから流れてきた番組は、今若者に人気の、兄妹をメインにした恋愛ドラマ。チャンネルを変えたくてもわざとらしい態度をとることは出来ず、私は悶々としていた。


「に、兄さん。今日のお味噌汁どう?」

「…美味い。腕を上げたな」

「そっか、良かった」


会話終了。兄さんも多少は気まずいらしく、口数がいつもより極端に少ない。何か喋ってくれー、と心の中で念を送るが、普段からあまり口数の多い方でない兄さんにそれを求めるのは無謀だった。


『ん、お兄ちゃ…』

『大丈夫…可愛いよ』


大丈夫じゃねええぇ!お前らが良くてもこっちは大丈夫じゃない!私の心の叫びなど関係なく、画面の中の二人は、熱烈なラブシーン始めてしまっている。


「…風呂に行ってくる」

「あ、うん!どうぞ」


この妙な空気に耐えられなかったのか、兄さんが自分の食器を持って席を立った。気を遣わせてごめんなさい、兄さん。正直助かった。一人になった私は、改めてテレビに目を向ける。…わあ、ベッドの上で抱き合いながらチューしてるよ。


「あり得ない…」


自分の兄とキスをするなんて、私には絶対に考えられない話だ。兄さんを好きになって、手を繋いだりキスしたり。こういうの、近親相姦って呼ぶよね。……。うわああ、何想像してるの私!こんなのただの変態だよ!テレビのチャンネルをバラエティー番組に変え、私は火照った頬を自分でつねった。変なことを考えるのはもう止めよう。私と兄さんはただの兄妹なんだから――。


「えっ…?」


食器を洗おうと立ち上がった瞬間、辺りが真っ暗になった。うそ、停電?耳をすませてみると、ザアザアと雨の音が聞こえる。まさか、と嫌な予感がしたと同時に轟音と光が走った。雷だ。そう理解した私は、外の僅かな光を頼りに無我夢中で風呂場に走り、脱衣場の扉を躊躇わず開け放った。


「っ……!兄さん!」

「なまえ、」


もう訳が分からなかった。怖い、ただそれだけの感情しかない。私が小さい頃、一人で留守番をしている際に雷が落ちて停電になった経験があった。その時から、私は雷が嫌いだ。暗闇の中、縋るように兄さんの体に腕を回し、力を込める。兄さんはまだ上半身服を着ていないが、今の私にはそんな事関係ない。ほんのりと香る石鹸の匂いに、少しだけ心が落ち着いた。風呂上がり故に、兄さんの髪の毛から滴る雫が私の肩を濡らす。


「大丈夫だ」

「……うん」


兄さんも私が雷を苦手としている事を知っているのだろう、そっと私の体に腕を回して抱き締めてくれた。雨はまだ止みそうにない。