テストも無事に終え、待ちに待った夏休みがやってきた。今年の夏は何をしようか、考えるだけで楽しかった。そう、夏休みが始まる前までは。
――暑い。とにかく暑い。私はリビングに置いてあるソファーの上で、だらしなく伸びていた。エアコンは故障中、部屋の窓は全開にしてあるが全くの無風で扇風機からは熱風しか送られてこない。今年の夏は特に暑いとテレビでお姉さんが喋っていたが、ここまでとは思わなかった。兄さんは課外授業を受けに学校に行ってしまったので居ない。こんな日にも兄さんは勉強に励んでいるのだ、尊敬する。
「アイス食べたい…」
しかし冷凍庫の中にはアイスなど入ってはいない。コンビニまで買いに行くのも暑いし面倒くさい。外に足を運ぶかどうか考えていると、携帯電話のメール着信音が響いた。
「あ…平助だ」
from 藤堂平助 sub プール ―――――――――
剣道部のメンバーで新しく出来たプールに行く話になってんだけど、なまえはどうする?
――end――
プールだと…!い、行きたい!この暑さをどうにかしてくれるならもう何でもいい。それに、最近近所に出来た新しいプールは評判が良く、一度行ってみたいと思っていたのだ。私が直ぐさま了解の返信をすると、平助から一時に直接プール集合との連絡が来た。やばい、何だか楽しくなってきたぞ。みんなでプールなんて久しぶりだし、どんな水着を持っていこうかな。
「ただいま」
「あ、お帰りー」
バタバタと慌ただしくプールに行く用意をしていると、玄関から兄さんの声が聞こえた。どうやら課外授業から帰ってきたらしい。外はかなり暑かったのだろう、兄さんの額にはうっすらと汗が滲んでいた。
「お疲れ様。お昼は暑さで腐らないように冷蔵庫に入ってるから、お腹がすいたら食べてね」
「ああ、分かった。…それで、先ほどから気になっていたのだが、どこかに出掛けるのか?」
「うん。ほら、最近新しくプールが出来たじゃない?家に居るのも暑くて嫌だし、平助達とそこに行くんだ。兄さんも来る?」
なんて冗談を言いながら、私はせっせと用意を進める。兄さんがプールなんて混む所に来るわけがないし。寧ろ、兄さんは涼むなら図書館に行くタイプだ。プール楽しみだなあ、ついでだし、帰りにアイスでも買ってこようかな。
「…俺も行こう」
「えっ」
今なんて言った。兄さんが、プールに行く…?驚く私に対して、兄さんは至っていつも通りだ。
「えっと…聞き間違いではないんだよね?」
「何か都合でも悪いのか…?」
「いや、そういう訳じゃなくて。珍しいなって」
兄さんとプールに行くなんて初めてかもしれない。しかし、よく考えてみればいくら兄さんでもこの暑さには耐えられないものがあるのだろう。彼だってたまにはプールに行きたくなるのかもしれない。私はクローゼットから引っ張ってきた水着を床に広げてどれを着ようかなと考えていた。
「…先程から気になっていたのだが」
「ん?」
「その中から着る水着を選んでいるのか」
「え、当たり前でしょ。逆に聞くけど、兄さんには私が何してるように見えたの。んー、これにしようかな!」
「……絶対に駄目だ」
「え」
「そんな布面積の狭い水着など着るな」
面積の狭いって…。普通の水着なんだけど。私が選んだのはビキニの上に、短パンとセットで着るタイプの水着だったが、兄さんに却下されてしまった。この調子だと、到底待ち合わせの時間には間に合わないだろう。
「水着なんてみんなこんなものだよ?」
「腹と胸元を自ら晒すなど…何を考えている」
「…ごめん、そこまで考える兄さんにドン引きだわ」
「なっ…」
結局、妥協してワンピースタイプの水着にしました。もう二度と兄さんとプールには行かないと決めた夏のある日。
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