屋上は私の好きな場所の一つだ。天気のいい日に屋上で食べるお昼ご飯はとても美味しい。私は今日も、兄さんお手製の綺麗に彩られた弁当を咀嚼していた。


「なまえの弁当って毎日旨そうだよなぁ。一くんもマメっていうか」

「平助にはあげないよー」

「なまえちゃん、僕にはくれないの?君が僕に食べさせてよ」

「嫌です。沖田先輩はモテるんですから、そんな事したら私が女子にいじめられます」

「それは残念だなあ」


ちっとも残念じゃないくせに…。とは口に出さず、私はモグモグとお弁当を食べる。何故このメンバーで食事をしているのかといえば、成り行きでこうなったとしか言いようがない。いつも一緒にお弁当を食べている子は委員会で遅くなるらしく、先に食べていてくれと言われた私は仕方なく一人屋上でお昼をとっていた。その時にたまたま平助に見つかり、その後女子達から逃げてきた沖田先輩に会ったという訳だ。私は二年生で平助は一年生、沖田先輩は三年生で、普通なら接点などない。学年もそれぞれバラバラな私達だったが、私は兄さん繋がりでこの二人とはよく話す間柄だった。


「そういえばさ、なまえちゃん告白されたんだって?」

「ぶっ」

「本当なのかよなまえ!?」

「沖田先輩…。誰の情報ですか」

「秘密ー」


にこにこ笑う沖田先輩はすごく楽しそうで、確実に私をからかってネタにしようとしている。その通り、私は2日前にクラスメイトの男子から告白された。席が近いため、彼とは頻繁に話す仲だったがまさか告白されるなんて思いもしなかった。


「それで、返事はどうしたの?」

「断りました。別に彼氏が欲しいわけでもありませんし。いつも女の子をとっかえひっかえしてる沖田先輩と同じにしないでくださいよ」

「…なまえちゃん、僕に冷たい所とか一君に似てきたよね」

「気のせいですよ。ね、平助」

「あー…うん。でもさ、一君が怒らなくて良かったじゃん。なまえが告白されたなんて聞いたら、黙ってないと思ってた」

「……ないの」

「は?」

「…兄さんにはまだ知られてないの」

「はあ!?」

「ふーん…いい事聞いたなあ」


驚きを隠しきれない平助と、面白い話を聞いたとばかりに楽しんでいる沖田先輩に、ため息しか出てこない。


「沖田先輩!兄さんには絶っっっ対に言わないでくださいよ!後がややこしくなるんですから」

「えーどうしようかな」

「なまえも大変だな…」


平助よ、同情するなら沖田先輩から私を助けてくれ。もしもこの事が兄さんに知られたらそれこそ面倒くさい。それに、沖田先輩はいつ口を滑らせるか分かったものじゃないから恐ろしい。


「沖田先輩、兄さんは心配性なんです。私が前に、冗談で彼氏が欲しいって言った時は三日間口を聞いてくれませんでした。だからくれぐれも、」

「帰りに何か奢ってくれたら許してあげる」

「最低ですね」


こうなったら条件を受け入れるしかない。ああ、今月のお小遣いが…!平助は哀れんだ目でこちらを眺めているし、誰も私を助けてくれる人は居ない。チクショー平助め、後で覚えてろ!


「でもさ、なまえちゃんはおかしいと思わないの?兄に恋愛を邪魔されるなんて普通ならあり得ないよ」

「兄さんは私の事をまだ子供だと思っているみたいで。…心配なんだと思います」

「…本当にそれだけなのかな」

「え?」

「何でもないよ」


沖田先輩が呟いた言葉は私の耳に入る事なく消えていった。