俺の妹、なまえは血こそ繋がっていないものの、俺を本当の兄のように慕ってくれている。手のかかる子ほど可愛いとはよく言ったもので、おっちょこちょいななまえからいつしか目を離す事ができなくなっていた。自分に世話好きな面があるかどうかは知らないが、なまえを見ているとなぜか放っておけないのだ。それに、彼女は人懐っこい性格や纏う雰囲気が柔らかいせいもあり、頻繁に不埒な輩に絡まれる。その度に自分が妹を守ってやらなければ、と責任のようなものを感じていた。


◇◇◇


只今の時刻は午後12時15分。辺りは食堂へ向かう男子生徒や、弁当を持ち楽しそうに談笑しながら屋上や中庭に向かう女子生徒で賑わっている。そして、俺はピンク色の巾着に入った弁当箱を手に二年の教室の前に佇んでいた。先に学校へ登校してしまったなまえは弁当を忘れて家を出ていったため、必然的に俺が彼女の元へ届けなければならなくなったという訳だ。
「あれ、一君?」
「平助か。何故お前が二年の教室前にいる」
「ちょっと用事でさ。一君こそ二年の教室に来るなんて珍しいじゃん。なまえに用事か?」
「なまえ弁当を忘れた故、こうして届けに来た」
「一君って律儀だよなー。なまえなら教室に居たし、呼ぼうか?」
「…いや、」
彼女が教室に居るのは知っている。しかし、なまえは俺が教室に来ることを何故か嫌がるのだ。前回も用事でなまえを訪れた際、ものすごく不機嫌そうだった。
「なまえに渡しておいてくれ」
「え、でも」
平助は不思議そうな顔をしていたが、これでいいのだ。なまえは今、反抗期の真っ只中らしくオレと学校で関わるのをなるべく避けているように思える。女子は父親や兄を嫌うと言うし、仕方のない事かもしれないが。
「喧嘩でもしたのかー?」
「いや、」
「一君ってさ、なまえには厳しいから」
「…やはりそう映るのか」
今まで何回も言われた言葉だった。彼女はまだ幼いうちに両親を亡くした。だから俺は、彼女が世間に出ても恥ずかしくないように箸の持ち方から他人に対する基本的な礼儀作法など、何から何まで教えたのだ。俺にとってなまえはまだまだ子供で、目の離せない妹であることに変わりはない。しかし、年頃の女子としては家族にうるさく言われるのは嫌なのだろう。昔と今はもう違うのだ。