兄というものは、妹の成長に伴い色々と気を遣わなければならない場面がでてくる。妹の部屋に踏み入る時や洗面所に行く際は、妹が着替え中でないかを声を掛けていちいち確認しなくてはならない。また、洗濯物なんて代物は触れてはいけない領域である。それなのに、このシチュエーションは一体何なんだ。


(くっ…下着はあれほど外に干すなと言った筈だが…!)


斎藤一は動揺していた。自分の洗濯物は自分で干すというルールが斎藤家には存在する。しかし、妹のなまえには無頓着な所があり、天気が良ければ下着も堂々と外に干すのだ。注意したのだが、「私の下着盗むやつなんて居ないよ。中に干すと生乾きの臭いがして嫌なんだよね」と全く聞き入れない。自分のせいで、兄が苦労しているとも知らずに。


天気予報を見ずに洗濯物を外に干した妹のおかげで、兄は悩んでいた。今日の天気予報は曇りのち雨で、降水確率は80%。なまえは日曜日なので友達と出掛けており、家には居ない。


(ついに降り始めてきたか。本来ならば洗濯物を取り入れるのが正しいのだろうが、俺に下着を見られた事を知ったらなまえは不快に思うに違いないな…)


目線の先には、他の洗濯物の影に隠れてはっきりとは見えないものの、可愛らしい小花柄にレースの装飾が施された上下セットの下着が風に揺られている。年頃の女子としては下着を兄に触られるなんて嫌だろうが、せっかくの洗濯物が雨に濡れては二度手間だ。


(許せ、なまえ…!)


下着類はなるべく見ないようにして、ベランダに干してある洗濯物を部屋の中に放り投げた。チラリと見えた妹の下着が意外と大人っぽくてショックだったなんて事は心の底にしまっておく。



兄と洗濯物



「兄さん、洗濯物取り込んでくれたの?途中で雨降ってきたから心配だったんだよね、ありがとう」

「………ああ」

「さっきから俯いてるけど、具合でも悪いの?」

「…心配するな、大したことはない」

「そう?なら良いけど」


兄の苦悩はまだまだ続く。