最悪。私って、どうして肝心な時に不幸に見舞われるんだ。今日は大好きなグレイとのデートだったのに、今日というこの日はとことんついてない。朝から寝坊してしまい、慌てて家を出たせいで財布を忘れてしまった。その上、急いでいるにも関わらず途中で変な男に絡まれ時間を食ってしまい。男は魔法で適当にやっつけたから良いんだけれど、待ち合わせの時間には到底間に合わない。グレイに対する罪悪感でいっぱいになり、とにかくダッシュした。しかし神様は私の事が大嫌いらしく、走っている途中バケツをひっくり返したような強い雨が降り出してきたのだ。大雨のせいで髪の毛はぐしゃぐしゃ、服や靴の中はびちゃびちゃ。せっかくお洒落したのにこれじゃあ台無しだ。とりあえず雨宿りでもしようと開店準備前のケーキ屋さんの屋根下に潜り込んだのだが。一向に雨は止まない。最初のうちは通り雨だろう、と雨が止むのを待っていたけれど、全く降り止む気配は見られない。
「グレイ、どうしてるかな」
もう一時間近く待ち合わせの時間に遅れているんだ、グレイは既に帰ってしまったかもしれない。あーあ、久しぶりに二人きりでゆっくり出来ると思ったのに。でもこんな格好を大好きな人に晒せないし、丁度良かったのかな、なんて。
「…最悪」
本当は会いたいよ。お互いに忙しいから、最近は全然一緒に居られなかった。私だって一応女の子だし、好きな人と疎遠になればそれなりに寂しい。どうして今日に限って雨なんだ、意地悪にも程がある。ホントについてない──
「っ…風邪引くだろーが」
「え、」
ばふ、と頭に布が被せられ聞き慣れた声が耳に届いた。被せられた布もといグレイの上着の間から顔を覗かせれば、大好きな人がそこに居て。
「なんで…」
「心配すんだろ。お前はただでさえ危なっかしいんだからよ」
「う…その通りでございます…」
グレイは何も言わず、大きな手でぐしゃぐしゃと濡れた私の頭を撫でた。少しだけ焦ったような様子の彼は、私のことを探してくれていたらしい。どうしよう、嬉しすぎる。…でも、この天候と格好では帰るほか道はない。
「ほら、家に帰るぞ」
「…うん。残念だけど、今日はここでバイバイだね」
「?今日はずっと一緒に居るんじゃなかったのか?」
「え、あのー…勘違いだったら恥ずかしいんだけど、もしかして、恋人らしくお家デートとかいうアレですか!?」
「…オレがお前と居たいんだよ、悪いか」
「うわ…珍しいね、グレイが素直になった」
思わず笑うと、グレイは照れているのか私の頭にかかっている上着で私の顔を隠した。お家デートとか…やばい楽しみだ。今日のご飯は久しぶりに奮発しようかな。
それから私達は激しい雨の中に飛び出した。水滴が服に染み込んで気持ち悪いし、靴の中もちゃぷちゃぷと音を立てている。こんな日に傘もささないで外を歩く人なんて私達以外には居ない。私はグレイの横を走る事で精一杯だ。
(グレイ、足速いっ…!)
私も足が速い方に入るが、やはりグレイには適わない。その前に、パンプスで全力疾走は辛い。足元は最悪な状態だし──やばい転ぶ!
「うわっ…と!」
「悪ぃ…急ぎすぎた。大丈夫か?」
危うく転びそうになった所で、グレイが私を支えてくれて。うわあ…私ってどこまで鈍臭いんだ、悲しくなってくる。と、少し考えたような素振りをみせたグレイが私に手を差し出してきた。
「ん、」
「?…手がどうしたの?」
「繋いでおけばお前も転ばないし、一緒に居られる」
「!」


私は差し出された手にゆっくりと自分の手を重ねた。


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