驚くことに、平凡で何の取り柄もない私にもストーカーが居たりする。彼を諦めさせるために、私には好きな人がいると嘘をついて何度も突き放したのだが、彼は全然めげない。寧ろ、行為がエスカレートしている気がするのは私だけだろうか。 仕事で疲れた体を引き摺ってマイホームに帰宅した私は一刻も早く休みたい気分だった。深夜に仕事から帰って来るなんてお肌にも悪いし、若い女の子にとってはあまり好ましくないが仕方のない事だ。玄関の灯りを点けてリビングに足を踏み入れ、漸く休めると思ったのだが。目の前の光景に疲労が増した気がした。…そこには、ソファーで寛ぐ奴がいたのだ。 「よう。遅かったな」 「何で勝手に人の家に居るのかな…。出ていってくれる?」 「お前に会いに来たんだよ」 私の家に不法侵入した張本人もといジークレインは、全く反省していない様子だった。評議員が何だ、ちっとも怖くないもんね。寧ろ腹立たしい事この上ない。悪いが私はジークに構っている暇などないのだ。疲れを取るためにも、ご飯を食べてお風呂にゆっくり浸かりたい。という訳でさっさとジークに出ていってもらおうと彼の背中を押したが、びくともしなかった。それどころか腕を引かれたかと思うと、ぎゅむ、と彼に正面から抱き締められてしまう。…な、何だこの少女漫画的な甘ーい展開は!そんなもの求めてないんだよ!必死の抵抗でジタバタと暴れていると、私の首筋に顔を埋めた彼は、私を逃がさないように更に腕に力を込めてきた。髪の毛があたってくすぐったい。 「ちょっと…止めてよ」 「シャンプー変えたか?いつもと匂いが違う」 「か、嗅ぐな!」 スキンシップが激しいのは日常茶飯事だけれど、ジークの息遣いが首筋に伝わってきて恥ずかしさで居たたまれなくなる。シャンプーを変えた事に気付くなんて、どれだけ私が好きなんだコイツは。 「私は、優しくて紳士で大人な男性がタイプなんだ!」 「それで?」 「…要するに、あんたみたいな強引な男とは付き合いたくないって言ってるの」 私の態度が気に食わなかったらしいジークに、思いっきり頬を引っ張られた。ちょ、伸びてるし結構痛いよ!きっと今の私は相当不細工な顔をしているのだろう、だってジークが馬鹿にしたような目で見下ろしてきたから。あの蔑んだ目は絶対に「ざまあみろ」って思ってるよね、この野郎…! 「お前の体は全部柔らかいな」 「…厭らしい言い方しないでくれる?」 じんじんと痛む頬を押さえていると、ジークに指を絡めとられた。ち、近い…!マズい、ちゅーされる!本能的に身を退くと、彼はさせまいと力を込める。 「逃がさねーよ」 「ひっ…」 「久々になまえに会ったんだ、オレがそう簡単に帰ると思ったか?」 「や、」 「オレの名前を呼んだら離してやる」 「…ジェラール」 ジークレインではなく、ジェラールと名前を呼べば彼は満足そうに擦り寄ってきて。離してやるとか嘘じゃんか!その前に、耳元で喋るの止めてくれないかな。悔しいことに、彼の声は腰がふにゃふにゃになる程エロい。私が大人しくなったのを確認すると、彼は綺麗な顔を近付けてきた。抵抗しても無駄だし、もうこのまま身を任せてしまおうか。
時には諦めも肝心
触れた唇は予想以上に熱くて、不覚にもドキドキしてしまった。
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