オレには好きな女がいる。そいつは笑った顔が可愛くて、気が利いて。魔法もそれなりに使えるし、フェアリーテイルには無くてはならない存在だ。しかし、完璧に見える彼女にもやはり欠点があった。それは──。


「ルーシィおはよっ!今日も可愛いねぇ」

「ちょっとー!胸揉むの止めなさいよー!」

「んー相変わらずおっきいなあ」

「あんたはオッサンかー!」

「あ、ミラちゃんだ!おはよう、抱きついていい?」

「ふふ、今日も元気ね」


はじめて彼女を見た人ならば、絶対にどん引きされてしまうだろう光景は最早日常茶飯事だ。なまえの欠点。それは男より女が好きな変態で、言動が多少…いや、かなりオヤジ臭いことだ。悲しいことに、オレは相手にされていないのが現状で。酒瓶を手にしたカナが、哀れむような視線を送ってきた。


「またなまえのこと見つめてるのー?」

「何か文句でもあんのかよ」

「あんたって一途なのね。玉砕覚悟で告白してみたら?男は待ってるだけじゃ駄目よ」


カナは酒を飲みながらケラケラ笑っている。絶対に他人事だ。オレだって、彼女にあんな性癖がなければ既に告白しているだろう。


「そんなのできたらとっくにして…うおっ!?」

「グレイ、おはよ!」


背中に軽い衝撃を感じて振り返れば、にこにこと満面の笑みを浮かべたなまえがオレに抱きついていた。今まさに彼女の噂をしていた最中で、聞かれてはしないかと不安になったがどうやら大丈夫そうだ。言っておくが、彼女は別に男が嫌いだとかそういう類いではないし、決して男に恋をできない訳ではない。ただ恋愛というものに興味がなく、女友達と絡んでいる方が楽しいという感覚の持ち主なのだ。


「ルーシィもミラちゃんも仕事だってー」

「お前もそろそろ家賃やばいんじゃないのか?」

「そうなんだよね。でも目を付けてた仕事は先に取られたし、どうしようかなぁ」


ぎゅーと腕の力を強めるなまえに、内心落ち着いていられない。彼女の体の感触や体温がダイレクトに伝わってきて、とてつもなく緊張する。しかし、離れてほしいと言ったら嘘になる。好きな相手に抱きつかれて嫌な男は滅多に居ないだろう。


「やっぱりグレイの体はミラちゃんみたいに柔らかくないなー」

「当たり前だろ」

「背も私より高いし、力も強いし。やっぱり男の子なんだね」


きゅん。ヤバイ、可愛い抱き締めたい。身長差のせいもあり、彼女は自然とこちらを見上げるような形になるのだが、それが堪らなく可愛い。


「…グレイ、もしかして体調悪い?」

「何でもねえよ」


なまえを直視していられなくなり視線を逸らすと、不審に思ったのか彼女が控えめに尋ねてきた。やめろ、顔を覗くな。ぜってー赤い。


「…こっち向いて?」

「!」


ふわりとあたたかい背中の熱が消えたかと思うと、自分のすぐ目の前に彼女は移動していた。近い、と咎める間もなく、自分の両頬は彼女の小さな手に包まれていて。なまえは何のためらいもなく、自らの額とオレの額とを合わせた。


「んー熱は無いね」

「……」

「グレイ?」

「っ、」


至近距離で見えるくりくりとした瞳や、直ぐに感じる息遣いに頭がパンクしてしまいそうだった。こんなにも近くで彼女を見たのは初めてかもしれない。いい匂いがして、柔らかくて。


「あまり無理しないようにね?」

「あ、ああ…」


ようやく離れた彼女に、ぎこちない体がもとに戻った気がした。不覚にも寂しいだなんて思ってしまった自分を呪いたくなる。彼女はいつも通り飄々としていて、どうしようもなく悔しい。

「あのさー…こんなこと言うのもアレだけど、私は女の子大好きじゃん?男の子にはあんまり興味なかったんだけど、」

「…?」

「グレイは特別かも」


あれ?もしかして脈あり?


「あ、エルザだ!お帰りなさいっ」

「なまえか、いい子にしていたか?」

「うん!エルザ大好きー」

…オレの恋路はまだまだ長いらしい。


Title/空想アリア