私には悩み事が二つある。一つ目、変態に付き纏われていること。彼は評議員の一人だから、権力を振りかざして私を呼び出したり、体を触ってきたりする。おかげで青色が嫌いになりそうだ。二つ目、ルーシィに借りた本にコーヒーをこぼしてしまったこと。これは新しい本を買って謝るしか道はないと思う。そして最後の三つ目。──幼児体型なこと。


◇◇◇


「うー…」
ミラちゃんに淹れてもらったココアを飲みながら、私はギルドのカウンターで一人唸っていた。きっかけは、クエスト依頼人の“こんな小さい子供に任せて大丈夫なのか?”という痛恨の一言だった。私はもう小さい子供と言われる歳ではない。あと少しで19になるというのに、童顔のうえ胸は申し訳程度のA弱で魅惑のヒップラインもない。つまり、可哀相なくらいの幼児体型だ。嫌でも自然と目に映ってしまう女性の胸元。正直、みんな豊かで羨ましい。邪魔になったりしないのかな、あんなに大きな胸してて。でも、走れば揺れるとか私も一度はそんな経験してみたい。…今の私、これじゃあただのエロオヤジみたいだ。
「ルーシィ、いつも何食べてるの?」
「えー?あんたとそんなに変わらないわよ」
「…それなのにボインってどういう事なんだ」
このギルドにはボインが多すぎるのが悪い。どうして私が肩身狭い思いしなきゃならないんだ!貧乳は走るとき邪魔にならないし肩こりしないし便利なんだぞ!…言ってて悲しくなってきた。
「大体何でそんな事聞くわけ?ダイエットでもするの?」
「クエスト依頼人に小さい子供と間違えられたから。胸が無いせいかと」
「ぶっ…そ、そうなんだ…」ルーシィは失礼なことに必死に笑いを堪えていたが、私に彼女を咎める元気は残されてない。私だって大胆な服とか着てみたいのに幼児体型なせいで似合わないのだ。ズルいぞルーシィ!
「なに騒いでるんだ?」
「あ、グレイ。仕事終わったんだ、お疲れー」
「だから何で脱いでるのー!?」
愛しい人の声が聞こえ、振り替えればやはりそこに居たのはグレイ。相変わらず服は着ていないらしく、ルーシィのツッコミが入った。グレイとは一応そういう親しい関係にあって、寝泊まりはほぼ一緒だ。つまり、彼の家で同棲しているに近い生活を送っている。
グレイ大好きな私は、椅子から立ち上がって彼に抱きついた。ルーシィがため息をこぼし、席を外したのが見えた。前に彼女に言われた事がある、「あんたたち二人の雰囲気に介入したくない」と。
「今日は美味しい晩御飯いっぱい作るね」
「おー。楽しみにしてる」
相変わらず仲良いのね、と笑うミラちゃんの声や、人前でイチャイチャするなんて若いねえ、と騒ぐ酔っぱらったカナの声が聞こえた。明日の朝御飯も作ってあげないと、どんなメニューにしようかなあ。明後日は仕事だから今のうちにグレイを補給しとこう。…あ。「そういえばグレイに言い忘れてた。私、明後日からナツとのクエストでしばらく家帰らないから」
「…はあっ!?」
「結構報酬の良い仕事だし、誰かに取られる前に決めちゃったの。…ごめん」
明らかに機嫌を損ねてしまったグレイ。いや、私が悪いんだけど。でもグレイは仕事で不在だったし、仕方ない事だと思うんだ。…だからそんなに怖い顔しないで欲しい。久しぶりに会ったんだし、もっとこう…。
「どうしてよりによってクソ炎と一緒なんだよ」
「えー…ナツ強いから」
「あいつと二人きりなんだぞ、分かってんのか」
「ナツだけじゃなくてハッピーも一緒だし大丈夫かなって」
「大丈夫じゃねえ」
「大丈夫」
「駄目だ」
「ああもう!グレイは過保護すぎなんだって!」
ギャーギャーと騒いでいる私達には自然と周囲の目が集まるわけで。しかしそんな事くらいで私達の言い合いは止まらない。
「ナツとは良い友達なの。グレイに口出しされたくない」
「なっ…」
「それに、私が男だったら、自分みたいな貧乳を異性としてみたりしないもん」
「だったら、お前に惚れてるオレはどうなんだよ」
「…グレイだって本当は巨乳が好きなくせにー!」
あ、まじで泣きたくなってきた。私が墓穴を掘った事により私達はお互いに黙り込んでしまう。ギルドのみんなはこっち見て何か言ってるし、もう最悪。こんな酷いこと言いたくないのに出てしまった言葉は戻らない。
「…オレはなまえだから好きなんだよ。胸があるとかないとか関係ねえ」
「!」
おそらく私の顔は情けないくらい真っ赤だろう。グレイはそんな私を見てぐしゃぐしゃと頭を撫でてきて。恥ずかしい、穴があったら入りたい。グレイの言葉が素直に嬉しかったなんて、絶対に言えないよ。ギルドの皆がからかってきたけど、今はどうでもいい。


痴話喧嘩


結局、クエストにはナツ、ハッピー、グレイ、私で行くことになった。その後が大変だったのは言うまでもない。