なまえはとてもいい匂いがする。甘くて蕩けてしまいそうな彼女の香りは、ボクを魅了して止まない。お菓子となまえ、どちらが美味しいのか試してみたいと思った時もあったが、兄上のお気に入りである彼女に手を出したらきっと怒られてしまうだろう。そうなったら兄上は、ボクを暫くの間物質界に入れないようにしてしまう可能性だってある。そんなのは嫌だ、彼女と会えなくなるなんて耐えられない。
「ぼんやりしてどうしたの、アマイモン」
「なまえを食べたらどんな味がするのか考えていました」
「えー?痛いのは嫌だよ」
主が不在の理事長室で、なまえとアマイモンは肩を並べてソファーに座っていた。なまえは読みかけの本を閉じ、アマイモンの言葉に苦笑いを浮かべる。美味しそう、などと言われて反応に困るのは彼女だけではないだろう。
「なまえを味見してもいいですか?」
「ちょっ…怖い、目が本気だよ!?私なんて本当に美味しくないし、とりあえず落ち着いて」
なまえはそう言うものの、彼女の体からはやはり甘い匂いが漂っており、アマイモンとしては我慢の限界だった。アマイモンは考える、彼女をここで食べてしまうか否か。彼女を傷つけたくはないが、今自分に沸き上がるどうしようもない感情を抑えられる自信はない。しかし、味見程度なら口煩い兄にもバレないし自分の欲も満たされる事だろう。
「やはりボクはなまえを味見をすることに決めました」
「わっ!」
いきなりソファーへ押し倒され、驚いたなまえがアマイモンから逃げようと身を捩る。しかし、非力な彼女はすんなりとアマイモンに捕まってしまい、恐怖と困惑にうっすらと涙を浮かべた。その表情でさえも彼の欲を掻き立てると知らずに。
「少し痛いかもしれません。我慢出来なくなったら言ってください」
「っ…!」
かぷり、とアマイモンがなまえの無防備で白い首筋に噛みついた。途端、鮮やかな赤が彼女の首筋から滲み出る。媚薬のような効果を持つそれは、あっという間に目の前の悪魔を虜にした。甘い甘い香り。アマイモンは欲に逆らわず、溢れたなまえの血を舐め取る。
「…!甘いです。こんなに美味しいものは初めて口にしました」
「や、止め」
「嫌です」
甘噛みをしながら柔らかな首筋の感触を楽しみ、アマイモンはなまえの甘さを堪能する。ぷるぷると体を震わせ、目をきつく瞑って恥じている彼女はとても愛らしい。
(どうやったらなまえはボクだけのモノになるのでしょう)
このまま閉じ込めて自分だけのものにしたい。彼女の全てが欲しい、と本能が訴えている。もういい、元々我慢するのは自分の性ではない。
「大好きです、なまえ」
白磁に噛み付いた痣
見下ろした彼女の首筋には真っ赤な噛み痕がはっきりと残っていた。ああ、また兄上に怒られてしまう。
title/空想アリア
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