私が見たのは、ひどくぼんやりとした夢だった。よく思い出せないが、きっと元就様と自分が出会った時の夢を見た気がする。初めて彼に会ったその日、私は元就様の持つ独特の雰囲気のせいで彼を真っ直ぐ見つめることが出来なかった。
「女。貴様は、我を恐れるか?」
仮にも結婚相手にこの呼び方はないだろうに、と内心呆れたが、私はそれよりも彼の淋しそうな顔が目に焼き付いて離れなかったのだ。直感的に思った。──この人は自分と同じだ、と。淋しそうな目も他人に心を許さない所も、自分と同じ。
「確かに、今の元就様は恐ろしく感じます。しかし、それはあなた様をよく知らないから。人が、初対面の相手を恐いと感じるのは誰でも同じだと思うのです」
「…生意気な女ぞ」
その時の元就様は訝しげで複雑な表情をしていた。私は何となくこの人を放っておけない、と感じてしまった。
「貴方だって、初対面の人間は恐いでしょう?」
「…貴様は訳が分からぬ。我にそんな事をいったのは貴様が初めてだ」
ほんの少し口元を緩めた彼は嘲笑するかのように鼻を鳴らした。私は彼の事をもっと知りたいと思った。彼が人を愛するとどんな風に変わるんだろうか、と下らない好奇心が湧いたものだ。私は暫く彼との想い出に浸り、ゆっくりと覚醒してきた意識にならい体を布団から起こした。隣では元就様が相も変わらず綺麗なお顔で眠っている。私は彼から与えられる愛情がどれほどのものかを知った。激しくて独占的な愛情。それは私が愛されているのだという証でもあり、酷く心地が良い。私は眠っている彼の額に軽く口付け、再び布団に潜った。


TITLE : Alstroemeria