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恋に落ちる音
放課後、びっくりするぐらい大きくそびえ立つ豪邸の前に僕はいた。
「ここがこれからカノがバイトする場所っすよ!!」
「セトの家もでかかった、この家はでかすぎじゃない…?」
信じられない。
これが何かの施設とかではなく、ただの家?
「そうっすね、確かによく考えたらでかいっすよね!!」
そう言いながらセトが豪快にはっはっはーと笑う。
いや、笑い事じゃないでしょ。
「はあ…こんな豪邸で働くの僕。しかも女装で…」
ついつい時給の高さに釣られてしまったが女装していたことがバレたとき相当ヤバいのではないのか?
「さ、行くっすよ!!」
セトが僕の制服の襟を掴んで、ずんずんと進む。
逃げられそうではなかったので僕は大人しく引きずられていった。
実際に豪邸の中に入っても凄かった。
いくつ部屋があるかも全く検討がつかない。
「こっちっす。」
セトに引っ張られて着いた場所には少し目付きが悪く黒い髪をツインテールにまとめ、可愛らしいメイド服を身に纏っている人がいた。
「紹介するっす、この人は榎本貴音さん。メイド長だから分からないことがあったら何でも聞くといいっすよ!!」
「よろしくね」
とても落ち着いてて大人な印象だ。
僕も自己紹介をして能力のことを説明した。
貴音さんはとりあえず、そのお嬢様のところにご挨拶に行こうと提案してきた。
「うーん…、こんな感じ?」
鏡に映る自分は軽くウェーブがかかっていて髪の長さは肩より下、体も女の子みたいに細い。
「どこから見ても女の子にしか見えないっすよ!!」
初めて表情だけではなく容姿を欺いたからか少し疲れた。
「とりあえず慣れるしかないか」
部屋の外で待っていた貴音さんの側に行くとギョッとされた。
「す、すごい…!!って、早く行かなきゃね!!」
貴音さんに着いていくとやがて一つの部屋にたどり着いた。
貴音さんが扉をノックする。
「誰だ」
女の子にしては低いハスキーな声が聞こえた。
「貴音です。新入りの子、セト君が連れてきてくれたから」
「分かった」
「…………………」
緊張してゴクリと唾を飲む。
貴音さんに促され部屋に入ると…
「あ、」
緑の綺麗な髪が長くて目付きは少し悪いが中性的な顔立ちをしており、間違えなく美人の分類に入るだろう。
僕は息をするのさえも忘れたように彼女に目を奪われた。
――目が合った瞬間、恋に落ちる音がした――