恋に落ちる音





「うっす!!今日は遅かったっすね、カノ!!」





教室を開ければクラスメイト兼幼なじみであるセトが手を大きく振っていた。





「おはよう…」





自分の机に鞄を置いてから扇風機の涼しい風が当たる場所に立ち、先ほど1階の自動販売機で買ったコーラを飲みながらシャツをパタパタと動かし風を送る。





汗が冷やされて、すごく気持ちいいがあまりやりすぎると逆に風邪を引くのでセトの席に向かった。




「カノ、カノ!!」





セトが待ちきれない様子でイスから立ち上がり机をバンバンと叩いていた。





まるでエサを要求する犬のようだ。





「はいはい、なに?」





「カノに女装してほしいんすけど!!」





セトの突然の言葉に飲んでいたコーラが噴き出しそうになるのを耐えた。





え…コイツ、なに言ってんの?





「あ、単刀直入すぎたっすね」





僕が何も言えずにいるとセトが自分で察してくれたのかへらっと笑った。





「ホントだよ、もしかしてセトはそっち系なのかと思ってヒヤヒヤしちゃったよ」





危うく大事な幼馴染みと縁を切って赤の他人となるところだった。




「そっちけい…?」





セトが首を傾げる、バカで天然でそういう知識をまるで持っていないのがコイツの良いところで悪いところでもある。





「はあ…、何でもない話続けて」




溜め息をついてセトに話を続けるよう促す。





「実は俺の幼なじみで金持ちのお嬢さんがいるんすけど」





「セトだって金持ちじゃん」





セトのバカでかい家を思い出す。




「話は最後まで聞くっす」





「はいはーい」





セトは昔から金持ちって言われるのがあんまり好きじゃなかったらしく僕がからかって言えば必ず苦い顔をする。





最近は言わないようにしてたけど、さっきのお返しだ。





「その子の家で働いていた執事が一人辞めちゃって、人が足りないんすよ」





「へえ、なるほど」





執事やメイドが居ても人手不足ってどんだけ豪邸なんだか…というか何故そこから女装に繋がるのかが理解できない。





「カノ、バイト探してたっすよね?」





「うん、まぁ」





夏休みもそろそろだし、遊びの資金が欲しいと前からセトに言ってたっけ。





「だから、カノに働いてもらおうと…!!」





「うん、そこまでは分かった。でもね、なんで女装?」





「そのお嬢さんが俺や父親以外の男が嫌い…というか苦手だからっす。カノなら欺くことが出来るし、ダメっすか?」





確かに人に自分を違ったように見せることが可能、表情なら日常的に欺いてる…だが表情だけではなく容姿とまでいくと難しいかもしれない。





というか、女装するぐらいなら別のところでバイトをしたい。





「悪いけど、パス」





「え…!?」





「だって、女装するぐらいなら他のバイトするよ。セト、ゴメンね〜!!」





面倒なことはゴメンだといわんばかりに笑顔で手をヒラヒラ振る。




「そんな…!!マリーに何て言えば!!」





セトが机に顔を伏せて右手で机をバンバンと叩く。





「悲しみのリアクションが大袈裟すぎるよ。っていうか、マリーって誰?」





ニヤニヤしながらセトに訊けば、セトがはっ!!しまった!!といった表情をしたあと僕から視線を外して何故か頬を掻きながら照れてる。





なに、この寒気がするぐらい気持ち悪い生物は。





これが女の子だったら可愛いと思うが考えてみてほしい僕の目の前にいるのは自分より背が高くガタイがいい男。





「だ、誰にも言っちゃダメっすよ!!」





「うん」





とりあえず返事をするが嫌な予感しかしない。





「俺の天使っす」





だらしなく頬を緩ませたセトの顔は殴りたい衝動にかられたが耐えてふーんと返事する。





「なに、セトの彼女?」





「ち、違うっすよ!!俺の一方的な片思いっすよ!!ってなに勝手に話そらしてるんすか!!」





「あ、バレた?」





「バレバレっすよ!!ってあ、鐘…鳴ったっす。詳しいことは休み時間で!!」





朝のHRの始まりの鐘が鳴って比較的真面目な人はそれぞれの席へと戻っていく。





「セトは真面目だなぁ。先生まだ来てないじゃん、てか楯山先生いっつも遅いじゃん。」





自分達の担任はなんというか自由でマイペースで何故先生になれたとか思ってしまうぐらい駄目人間の見本だ、席に着いてなくて怒られない。





だから、けっこう鐘が鳴ってもずっと話している人がいる、僕もその中の一人だし。





「ほーら、ダメっす!!」





セトに言われて渋々自分の席に戻る。





席に戻れば近くの女子が話しかけてくるから、極力自分の席に座りたくない。





「はあ…」





仕方なく、自分の席に着けば…





「ねえねえ、修哉聞いてよー!!」




そう馴れ馴れしく自分の名を呼ぶケバい女。





「なになにー?」





そう言って興味深々みたいに笑顔で言えば喜ぶ女。





「(やっぱり、女って…嫌いだな)」





女の言葉を適当に流しながら早く先生が来ることを願いながらセトから聞いたバイトの話を考えていた。











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