初恋は叶わない




夏休みのバイト二日目のことだった。





いつも通りキドの広い部屋を掃除してからマリーが淹れてくれた紅茶を運んできた時のことであった。





「はあ…」





「どうしたの、キド」





溜め息をついたキドはどこか悩んでいる様子で思わず訊いてしまった。





「あ、ちょっと…な」





キドは苦い顔をしながら紅茶が入ったカップに口を付ける。





「僕で良ければ何でも聞くからね!!」





「あぁ…。じゃあ、聞いてくれるか?」





キドがベッドの上に座り、僕も同じように座る。





「もちろん!!」





笑顔でそう答えればキドは安心したように話始めた。





「お父様が縁談の話ばかりするんだ…俺はそんなの嫌だし」





「うんうん、僕もキドが結婚しちゃうのは寂しいな」





嬉しいとは言いたくないし、嫌だ、とは言えない。





「それでな…まあ、婚約者は昔からいるんだ」





「へ、そうなの?」





焦りが生じてくる、誰だ、誰が…。





「相手は……セトなんだ」





「……え」





「びっくりしただろ…?でもセトはマリーがいるからな、セトと結婚するつもりは全くない。ただ、そしたら次にお父様は俺を誰と結婚させようとしてくるんだろうな…」





「キドは嫌、なんだよね…」





「まあ、そうだな…。昔は好きなやつがいたけど…きっと、アイツは俺のことなんて忘れてるだろうし…。そうそう、俺の好きなやつ、お前にそっくりなんだ。はあ…お前がアイツだったら…良かっ」




気がついたら僕はキドをベッドの上に押し倒していた。





「か、の…?」





信じられないものでも見るような目でキドは僕を見上げていた。





「……………ゴメン」





その好きな相手が僕と分かった瞬間、一瞬でも襲おうとしていた自分に嫌気がさす。





両思いなのに立場の違いが、女と偽っていることが邪魔する。





何で僕たちは恋をしてしまったのだろう。





――初恋は叶わない、ジンクスさえも憎い――










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