互いに想って(カノキド)







































ー別に…俺は、寝込みを襲う趣味等を持っているわけではない。



































人の寝顔を見て幸せになったりとか、普段…あまり見れないあどけなさを見れて嬉しいですとか……別にそれらが好きってわけでもない。
















そう、断じて、だ。

















だから、今、直ぐ目の前にある幼馴染の寝顔を見て酷く頬が緩んでいるとか、きっと、何かの……


「……ん…っ」


間違いだ。

身じろぐ度に揺れる猫っ毛を見て、心の奥が波打っているのも、きっと何かの間違い。


…一人でにそんなことを思いながら、ざわつく胸を抑えて、俺は目の前の寝顔を見つめる。



「……寝てる時は可愛げあるのにな……お前」


いつもは…雑誌を顔に乗せて仰向けで寝ているクセに…今日に限って、何故かこいつは横向きで寝ていて、その…よくよく見てみると端正であるそれを晒して、リビングのソファにいる馬鹿に…俺はポツリとそう呟いた。


「…なんで……よりによってお前がリビングで寝てんだよ…」


微かに聞こえる規則正しい寝息に、ムスッ…と無意識に頬を膨らませているのは、決して寂しいからとか、そんなわけじゃない。


ーだって、特に期待はしていなかった。


久々に、夜から深夜にかけての単独任務に行っていた俺は、勿論アジトに帰っても誰も起きていないと思って、少しの寂しさを感じながらリビングに入ったのだ。
まぁ、確かに案の定、誰も起きてはいなかった……。

けれど、リビングは灯りがついていた。

…ソファで横たわる、寝巻き姿の馬鹿のせいで。


「……こんなとこで寝てたら風邪引くぞ馬鹿」


普段着ている服とは少し異なる、何の模様も柄もない…真っ黒の暖かそうなパーカーのフードを頭に被って、猫のように身体を丸めて眠っているカノに声をかけてみるが、依然、起きる気配は無い。

それに溜息をついて、ふと、目に留まった、…フードからこぼれてぴょんぴょんと跳ねている猫っ毛をジッと見つめる。

そして、それに興味を抱いた俺は…


「…い、いつものお返しだ」


誰にとも無く呟いて、恐る恐る、その柔らかそうな猫っ毛に手を伸ばす。

…その瞬間、思っていた以上の柔らかさを醸したカノの髪に目を見開き、やわやわと触った。


「…や、柔らかいんだなお前の髪……」


髪を触りながら、小声でそう呟いても、当たり前だがカノが返事をするわけでも無く……

その、妙な沈黙に何だか…自分が変態の様に思えて来て、顔に熱が集まるのがわかった。

でも、髪を触る手が止まるわけもなくて。


「……ばーか」


照れ隠しをする様にそう吐き捨てて、起こさない様に頭をゆっくり撫でてみる。
ふわふわとした毛並みが、撫でる度に指と指の隙間からはみ出すのがくすぐったくて、くせになる。

…そして、つい、夢中になってカノの頭を撫でていた時だった。


「……んん…」
「ーっ!!」


突然、眉間に皺を寄せて、くすぐったそうに身じろいだカノに、びくりと体が揺れる。


ーお、起こしたか…?!


もしも、この状況がこいつにバレたら……

ドクドクと脈打つ心臓に、撫でていた手がカノの頭に触れたまま固まる。


「…か、の…?」


聞いたら余計に起きてしまう可能性があるのに、わざわざ声をかける自分に呆れた。


しかし……。


「……んぅ…」


予想外にも、再び寝息を立て始めたカノに、はぁ……と深い溜息をつく。
バレなかった安心感と、バレたらどうなるのか、という緊張感が、それと共に一気に吐き出された。

ふぅ、と一呼吸ついて……また、懲りずにカノの頭を撫でていく俺を誰かが見たら、きっと、間違いなく変態扱いするだろう。

でも…


「………もうちょっとだけ」


もっと…カノに触れていたい、という気持ちが俺の中で暴れてしまうのだから、仕方ない。

言い訳かもしれないけれど……


「……ふふっ…」


カノの頭を撫でて、幸せになっている自分がいるのは事実なのだから、もうどうしようもない。

普段…こいつは平気で俺に抱きついてきたり、頭を撫でてきたり、酷い時はキスをしようとしてきたりするが……何だか、その時のこいつの気持ちがわかった気がして、そのことに一人納得しながら、そのまま俺は飽きもせずにカノの頭を撫で続けた。


そして、ふと…自分がまだ風呂に入ってないことを思い出し、時間的にも今入らないと明日に差し支えると思った俺は、最後におずおずと……その無防備な額に口を寄せた。


「………」


ふっ…と触れて、カノが起きていないのを確認してから、俺は逃げる様にその場を立った







……筈だった。







「……ひぁっ?!!」


カノの頭を撫でていた右手が、勢い良く何かに引っ張られ、立ち上がりかけていた俺はそれに誘導される様にカノの寝ているソファに倒れこんだ。
状況が掴めぬまま、驚いて瞑っていた瞼を開けると……


「ーッ!!」


真顔で俺を見上げるカノが目の前にいた。


「…寝込みを襲うなんて……つぼみちゃんも大胆ですねぇ?」


不敵な笑みを顔に刻むカノを目の前に、俺は声にならない悲鳴をあげてソファから逃げようと身体に力を入れる。
でも、それを予測してか、俺の腰には何時の間にかカノの腕が回されていて、逃げるにも逃げられない。

…そんな俺をニヤニヤと笑いながら、段々近づいて来る端正なそれに俺は弁解をしようと必死に言葉を探す。


「べ、別に襲ってなんか……いな…い…」
「へぇ?」
「ーーッ…」


近すぎる距離に、口から出かけた声がただの吐息になって消える。

その姿に、カノはブッ…と吹き出すと、俺の腰にまわしていた右手を俺の頬に滑らせて……


「…言い訳ばかり言うつぼみちゃんに、僕からとっておきのお仕置き」


そう言ったカノの口が、薄く開いていた俺の口に触れた。
視界が肌色に染まって、頬が……急激に熱を持つ。

『あ、キスされてるんだ今…』と他人事の様に現状を理解した時には、既にそれらは離れていて。


「……単独任務、お疲れ様…」


そう言って優しく微笑んだカノの右手が、俺の左頬を撫で回し、その歯痒さに顔を歪めるとクスッと笑われた。


「いつから起きてた…」


寝ていると信じきっていた俺は、抱いていた疑問をふてくさるように呟いて、いまだに撫でてくるカノの右手に自分の左手を重ねた。
俺とは少し違う……男らしい骨張ったカノの手の甲に胸が強く波打つ。


「んー、キドが僕の頭を撫で始めたあたりからかな〜」


「ほぼ最初からじゃないか……」と言おうとして、遮られた。

再び、柔らかいカノの口が俺のそれに押し付けられて、呼吸を忘れる。
夜から深夜にかけての単独任務だったから、無意識に孤独を感じていたのかもしれない。
カノと触れ合っているというのが分かるだけで、涙が出そうになった。
ゆっくり離れていくカノが名残惜しくて、思わず自分から追いかけそうになるが……


「……わっ…」


…まるで、タイミングを見計らった様にカノは俺を抱き締めると、さっきまで俺がやっていたように今度はカノが俺の頭を撫でてきた。
抱き締められたせいで、もろカノの匂いを嗅ぐことになり、速度を増す鼓動に動揺を隠せない。


「…あ、またリンス変えた?」


唐突に囁かれた言葉に、何故分かる…と心の中で思いながら、でもそれを口にすることは無く、俺は無言で頷いた。


「…いい匂い……」
「ーっ……」


恥ずかしいことを平気で言う馬鹿に鉄拳を浴びせようかと迷ったが、それよりも…いっそ、らしくも無く甘えてみようかと思案して…一人でその案に賛成した俺は、ぎゅっ…とカノに抱き付いた。

すると…


「っ?!…ど、どうしたのキド…っ」


…戸惑った声がすぐそばから聞こえて、ざまみろ、とカノの胸に顔を埋めながら俺は笑った。
ーそのまま、無言でカノに抱き付いたままでいると、不意に優しく……でも力強く抱き締められて、今度は俺が焦った。


「もー…不意打ちの甘えん坊なんて……どんだけ僕に襲われたいの?」


ーなっ……

何を勘違いしているんだ、と急いで言い返そうと顔を上げて、

後悔した。


「ッ……」
「っ…ちょっ……見ないでキドさんっ…」


口では、余裕そうに言っていた筈のカノが…まさか、顔を真っ赤にさせて俺を見ているのを目の前に、俺は開きかけた口がワナワナと震える。

…と同時に、頬が熱くなっていくのがわかった。


「…も〜……キドが帰ってくるまで待ってようと思って起きてた筈なのに寝ちゃったし……キドには寝込み襲われるし………不意打ちの甘えん坊なんてくるし…」
「お、襲ってない!」


誤解を招くような発言をするカノに咄嗟に突っ込むが、それも…


「…もーね、最高過ぎて死にそう……」


…そんな、カノの言葉であまり意味を成さなくなった。


「……なっ…」


顔を赤くしたまま俺を見つめてくるカノと視線が合い、無言で見つめ合うその空間にいたら…どうにかなってしまうんじゃないか、と焦って、俺は即座に視線を逸らした。

…が。



「…大好き……つぼみ…」
「ぅえっ……」
「プッ…何今の変な声…」
「ーっ……」


ー耳元で……好きな人に大好きだなんて言われたら、誰でもそうなるだろう…

ムッ…と眉間に皺を寄せて、ぅ、うるさいっ……と言えば、嬉しそうにカノは笑い、また触れるだけのキスをしてきた。
決して、深いものにはならないそれが妙に心地良くて、それだけを感じる様にゆっくりと瞼を閉じた。



…そして……


「……今度から、なるべく二人で任務行こうね?」
「え……」
「こんな夜中に……大切な女の子を一人で出歩かせたく無い」


そう言って、俺を抱き締めたカノの両手が微かに震えていたのを感じて、漸く……カノが何故リビングで寝ていたのか分かった。


「……心配してくれて…ありがとう……」


申し訳なさと嬉しさで、涙ぐむのを必死に耐える。


「…俺も…大好き………だからな、修哉」
「…知ってる」


カノの眠そうな声を聞きながら、あ、お風呂……と一番大事な事を思い出し……でも、このぬくもりから離れたく無いという気持ちが勝ってしまった俺は、ぼんやりと、朝風呂でも良いかな…と思いながら、瞼を閉じたのだった。






fin.




終焉のそらじろーさんから貰いました!!


カノキドが可愛すぎて必死にニヤニヤを隠しながらもう何度も読み返してます!!笑









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