ほら、届いた。(セトマリ)
*学園パロです*
今日も、来てくれるだろうか。
なんて考えるわたしは多分罰当たりだ。
それでも期待は止まらなくって、
どんどん高く高く積み上がってしまう。
――あ、ちょっと顔ゆるんでるかも...!
だって想像しただけで、
嬉しくて仕方ないんだ。
ギィ、って壊れかけのドアが開いて、
誰もいない屋上にぽつんと出てくる緑色。
相変わらず制服を着てないみたいだ。
「あ、マリー!」
「セト、おはよう...!」
もうお昼だけどね、
なんて二人でクスクス笑い合う。
「じゃじゃーん!
今日は唐揚げ作って来たんスけど...、
やっぱ食欲無いっスか?」
「うん、ごめんね。
お弁当...いつも持ってきてくれるのに」
「良いっスよ〜!
マリーと話してるだけで幸せっスから!」
セトと出会ったのは、
この屋上。
授業をサボってお昼寝してたセトを、
わたしが起こしたのが最初だった。
優しくて、
格好よくて、
一緒に居ると安心する。
だから、わたしはセトが大好き。
ずっと一緒に居たいな、
なんてワガママなことも考えちゃう。
「ねぇセト、
そういえば昨日のテストどうだった?」
「うーん、ビミョーっス。
ここんとこサボってばっかだったんで」
「...そうなんだ」
「マリーは?」
「...わたしは、
サボっちゃったから0点なんだ」
「えぇ〜!?
じゃ、俺もサボれば良かったっス...」
「ふふ、ダメだよ〜。
セトって結構寂しがりやさんだよね」
「だって俺、
マリーが居ないと生きてけないっスもん」
「...あはは、も〜。
本当に寂しがりやさんだね、セト」
「そうなんスよー!
だから甘えさせて下さいっス、マリー!」
「だーめっ。
ほら、
あんまり喋ってると授業始まっちゃうよ?
出席日数足りるの?」
「う゛っ...。
マ、マリーこそどうなんスか?
いつ来ても屋上に居るんだし、
マリーだって...」
「わたし、
ちゃんと日数計算してるから大丈夫だもん」
「う゛ぅぅ...」
「ほら、授業遅れちゃうよセトっ」
「うぅ〜〜マリーが冷たい〜...」
ぶつくさ泣き言を言いながら、
セトは屋上を出ていった。
わたしはまた一人になって、
セトが置いていってくれたお弁当箱に手を伸ばして―――
するり、
指がすり抜ける。
掴もうとしても、
わたしの手はお弁当箱に触ることさえ出来なくて。
ただ半透明に透けて、
空を切るだけ。
セトは、知らない。
...わたしが幽霊だってこと。
目が醒めたら屋上に居た。
生きていた時のことはぼんやりと覚えてるけど、
正直忘れてしまっていた方が楽だった。
わたしは生まれつき髪の毛が真っ白で、
そのせいで色んな人に色んなことを言われていた。
気持ち悪い、とか、
変、とか。
どうして死んじゃったのかは覚えてない。
けど、
多分自殺だと思う。
この屋上は自殺が起きたから立入禁止なんだって、
セトが言ってた。
それに...
わたしが此所から離れられないのは、
多分地縛霊っていうものなんだろう。
それならわたしは、
此所で死んじゃったのかもしれない。
...本当はあの時、
セトに話しかけるべきじゃなかった。
わたしが隠れていたら、
セトだってわたしに気付かなかったと思う。
幽霊が人に干渉するのは良くない。
だって、
寂しくて寂しくて仕方なくなるから。
ずっと一緒に居たいって、
おんなじになりたいって思っちゃうから。
わたしはセトの所に行けないけど、
セトを連れてくることは出来てしまう。
...それが怖くてたまらないのに、
わたしはセトに会うのをやめられなかった。
こんなの絶対にダメなのに。
セトには、生きていてほしいのに。
「...怖い...よ」
どうして、
好きになっちゃったんだろう。
なんで、
わたしは死んでるんだろう。
生きている時に出会いたかった、
なんて何回考えたか解らない。
――どうしたら、
あなたの傍に居られますか?
「マリー!」
次の日も、
セトは笑って屋上に来た。
2人分のお弁当を持って。
だけど――――
「...セト、何だか顔色悪いよ?」
「えっ?
そんなことないっスよ〜!
それよりほら、今日はカレー弁当っス!」
「......そう」
嫌な予感がした。
胸がざわついて、
どうしようもなく怖くて、
なのに何も言えないまま、
わたしはいつも通りお弁当を断った。
そうしていつもみたいにお話して、
お昼休みが終わりに近付いて。
そろそろ戻ろう、
って話になって。
お弁当を片付けたセトが立ち上がった、
その時だった。
「――――ッセト!?」
ぐらり。
セトがぐらついて、
わたしは慌てて受け止めようとする。
だけどセトの身体はわたしの身体をすり抜けて、
冷たいコンクリートの床に倒れ込んだ。
「っセト、セト!
起きて、セト!!」
どれだけ呼んでもセトは起きない。
気を失ってるみたいだった。
セトの顔色はどんどん悪くなっていって、
わたしはセトに手を伸ばす。
...けど、
やっぱりすり抜けるだけだった。
「......っ!」
誰か、誰か呼ばなきゃ。
そう思った瞬間、
身体が固まったみたいに足が動かなくなる。
――そうだ、
わたしはここから出られないんだ...!
なら誰かがセトを助けてくれるのを待つしかない。
誰か?
立入禁止のこの場所に、
人なんて来るわけがないのに?
――どうしよう、セトが...、
セトが死んじゃう......っ!!
「っや...!」
――わたしの、せいだ...!
「っセト、死んじゃ、やだぁ...!
起きて...起きてよ......!!」
泣いて、泣いて泣いて泣いて――
セトが警備員に発見されたのは、
夜になってからだった。
セトはどうなったんだろうか。
屋上から出られないわたしは、
ただ祈ることしか出来なくて。
1ヶ月くらい経ってからだろうか。
...セトが、屋上に来たのは。
「...マリー?
居ないんスか?」
わたしは、隠れていた。
出ていきたい気持ちをのみこんで、
必死に。
でも本当は、
涙が出るほど嬉しかった。
セトが生きていてくれて。
また会いに来てくれて。
...だけど。
会えない。
もう、会えないよ。
「...マリー、
出てこなくても良いんで、
そのまま聞いてほしいっス」
「......。」
「――――俺、
マリーが幽霊だって知ってたっスよ」
「......!?」
――え?
思わず声が出そうになる。
どういうことなの?
「まぁ、
最初は気付かなかったっスけど...。
毎日毎日お弁当断られるし、
いつ来ても屋上に居るし...というより、
屋上以外でマリーに会ったことなかったし」
「......。」
「正直、
体調悪いのもそのせいかなーとか。
色々考えたんスけど...」
それなら、どうして。
...どうして来たの、セト。
「でも俺、会いたかったんスよ。
どうしても」
「......っ!」
「...マリー、俺、
マリーのこと大好きっス。
もう会えなくても、
例えマリーが俺のこと忘れちゃっても」
「せ...、」
「俺、ずっとずっとマリーが好きっスよ」
がちゃり。
扉が、開く。
――セトが行っちゃう。
――セトが、セトが...!
もう、会えなくなっちゃう。
「っセト!」
走って、
自分より一回り大きい背中に抱きつく。
けど、やっぱりすり抜けてしまって。
立ち止まったセトが、
びっくりしたみたいにわたしを見てた。
「...マリー」
「...っセト...!」
触りたい。
触りたいよ、セト。
いつもいつも、
授業をサボってお昼寝ばっかりしてるセトに、
触りたくて仕方なかった。
セトの作ってきてくれたお弁当だって、
本当はずっと食べたかった。
手を繋ぐことも、
抱きしめることも、
キスすることも、
わたしは何一つ出来ない。
伸ばしても伸ばしても、
わたしの手はセトには届かない。
「っ届かない、よ....、セト...!」
「...そんなことない」
セトが笑って、
そっと唇を合わせた。
触れることのない、
ただ合わせるだけのキス。
「――ほら、届いた」
セトが微笑う。
その笑顔は、
とても綺麗で、優しくて。
わたしも精一杯の笑顔を返した。
「―――ありがとう...」
指先からあたたかいものが身体中を巡って、
“わたし”が風に溶けていく。
あぁ、消えるんだ、わたし。
でも不思議と怖くなくて、
心地好くて。
セトは微笑い続けてくれていた。
涙を溢しながら、
それでも微笑って、
消えていくわたしを見送ってくれた。
ありがとう。
微笑ってくれて。
傍にいてくれて。
いっぱい幸せをくれて。
わたしを好きになってくれて、
ありがとう。
大好きだったよ。
さようなら。
きっとわたしは、
何度生まれ変わっても、
何度だってあなたを好きになる―――。
(end)
I'm waiting for you.の佳花さんから貰いました!!
もう切なすぎて何度読んでも涙が出そうになります…。
佳花さんのセトマリは可愛くて佳花さん自身がマリーすぎて可愛いです(*´∇`)
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