I come to love you gradually.
「ふん、ふん♪」
俺の腕をグイグイと引っ張りながら俺の少し前を歩いているアヤノを見て、やっぱりおかしいと眉にシワを寄せた。
そう、今日のアヤノは何かとおかしいというか怪しいというか妙に浮かれているというか…正直に言えばかなり気持ち悪い。
まず、朝下駄箱で会うと今日は暇?、と訊いてきた、もちろん俺は暇、と言った。
そう答えてすぐになんかまた厄介事に巻き込まれるかと身構えていたかアヤノはそっかー、と笑ったあと別の話題へと移行した。
そして、授業中は何やら一人で妄想して一人でデレデレと頬と口元を緩ませて笑っている。
――正直かなり不気味だ。
お弁当は何かと俺におかずをあげたがる、食欲がないのか、と訊けば…あるよ!むしろ、いつもより私は腹ペコなんだよね!!とアヤノは笑って俺におかずをよこした。
――意味が解らない。
そうして退屈な六時間が終わり、自宅に帰ろうとすると満面の笑顔のアヤノが帰る気満々の俺に容赦なく、付き合ってくれ、と言ってきた。
当然、俺も嫌だと最初は反抗したが今日のアヤノはしつこいというかどうにもやりづらく結局、根負けしてしまって今に至るというわけだ。
「…着いたっ!!」
俺が今に至るまでの回想をしている間に目的の場所に到着したらしく前を歩いていたアヤノの足が止まった。
「…ここ」
そこにはごく普通の小さい一軒家があった、表札には『楯山』と書かれてある。
「…私の家だよ!!」
自慢げに胸を張ってドヤ顔するアヤノの頭に表札見れば解る、とツッコミをしつつ、チョップすればアヤノはいたぁっ!?と大げさにリアクションをするアヤノに苦笑した。
「…で?」
ここに来た用件は何なのか、それをまだ聞かされていない。
「で?」
アヤノは質問の意味が解っていないのか俺の言葉を繰り返し言う、英語のリピートじゃないんだから、ちゃんと俺と会話のキャッチボールをしろよ。
俺の不機嫌そうな顔を見てアヤノはまあまあ、と言って俺の背中を押す。
「…はぐらかすな」
ジロリと睨んでもアヤノは特に怯んだ様子もなく、へらっと笑った。
結局、アヤノによって家に入らせられた俺はすぐにリビングに通らされた。
「…ちょっと待っててね!!そこに置いてあるマンガとか読んでくつろいでてね!!」
そう言ったきりアヤノはキッチンへと姿を消し、俺はすることもなくお言葉に甘えてそこの置かれているマンガを手に取った。
「…ん、神風怪盗○ャンヌ?少女マンガじゃねーか」
確かにアヤノも年頃の女だし、少女マンガを読むのは当たり前かもしれないけど…どうにもイメージに合わない。
することも特に無いので仕方なくその少女マンガを読んでみる。
読んですぐにハマってしまった。
まず、そのストーリーに引き込まれてしまった…続きが気になって仕方がない。
「…シンタロー、飲み物はお茶とコーラどっちがいいー?」
いきなりアヤノにキッチン越しに話しかけられビクッと肩が震えた。
「コーラ」
「りょーかいー」
アヤノがパタパタと小走りしてキッチンへと姿を消したのを確認してからはあ、と溜め息をつく。
まさか男の俺が少女マンガに夢中になってたなんてアヤノに知られたくない、マンガは今度本屋で買うことにしよう…じっくり読みたいし。
「…お待たせ〜」
俺の沈んだ気持ちとは正反対なアヤノの能天気な声が聞こえて頭を上にあげるとそこには少し不格好なケーキとたくさんのロウソクをお盆にのせているアヤノがいた。
アヤノはよいしょ、と着々と準備を進めていくが俺にはこの状況が理解出来なかった。
――なぜ、ケーキ?
――なぜ、ロウソク?
何かの記念日だっただろうか、いくらテストで3桁取れてもこういうところで頭が働かないのは何だか社会に出てもあんまり意味がない気がする。
「…覚えてないの?」
アヤノが不思議そうに訊きながらケーキに一本ずつロウソクを立てていく。
「…全く」
「…そっかー」
アヤノが少し悲しそうに呟くのを見て、もしかしたら今日はアヤノにとって大切な日なのかもしれない、などと考えているとアヤノが出来たっ!!と声をあげた。
「…シンタロー、誕生日おめでとう。これからも、よろしくねっ!!」
一瞬、何言われたのか解らなかった…ただアヤノの笑顔につい、見惚れてしまっていた。
「……なんつーか、その、ありがと、な」
煩く鳴り響く心臓の音を無視してありがとう、とお礼の言葉を言う俺は不器用だからなかなかアヤノには思いを伝えられないけど今回はちゃんと言えた。
アヤノが何も反応を示さないので恐る恐るアヤノの顔を見てみれば、ボロボロと涙を溢していた。
「え、ちょ…なんで、お前が泣いてんだよ!?」
泣くのは普通、祝われる俺の方だろう、なんでアヤノが泣くんだよ…。
「…だ、だってっ…私、シンタローに嫌われてるのかと思ってたし、シンタローにありがとうなんて初めて言われたし…」
うー、とだらしなく鼻水を垂らしているアヤノの鼻をすぐにティッシュで拭いてやる。
「うぅ…、ありがとね」
未だにずびずび、と鼻水を啜るアヤノの頭の上にポンと手を乗せた、新たに芽生え出した気持ちに気づかずに…。
I come to love you gradually.
(あなたをだんだん好きになる)
あとがき…
アヤノの幸福理論を聴いてから色々カットした…このときカノキドセトは外に出かけているということで…でもカノキドセトはいつからアヤノの家から出て、あのアジトで暮らし始めたんだろ…うーん
…まぁ、幸せなシンアヤが書けて個人的には満足。
シンアヤ、もっと増えるべき
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