数分経ち、脱衣所より現れたキドの腕には大量の洗濯物が抱えられていた。
前が見えない上重たいようで、彼女には珍しくよたよたと足取りが悪い。
「今日は量多いな…」
息混じりな彼女の独り言。
キドがカノの横を通り過ぎる。
と、腰で結んだエプロンの結び目を引かれ、キドの身体が後ろにのけ反った。
「うぁっ?!」
宙を舞う洗濯物。
濡れて重いそれが、バラバラと地に散らばって落ちる。
カノは彼女のエプロンを引いたまま、その身体を壁に優しく叩き付けた。
「痛っ…」
背が少し痛い…
「何す…」
痛がって伏せていた目を開け、『何するんだ』と抗議しようとした口。
それが彼の行動で紡がれる。
ドンと大きな音をたて、カノは両手で彼女の逃げ道を塞ぐように壁に手を付いた。
びくりと彼の腕に挟まれたキドが、身を震わせる。
大きな音と、カノの様子に声が出なくなっていた。
驚いたような…怯えたようなキドの表情。
カノはただ黙ってキドを見つめる。
「カノ…?」
ようやく彼女が搾り出した声は震えていた。
名を呼ばれたカノは、何も答えない。
と、その顔が彼女に迫る。
それはゆっくりと。
だが着実に…
キドの肩がびくりと跳ねた。
「へ?え…やっ…」
身を引こうにも後ろは壁であり逃げられない…。
ズルズルと座り込むと、カノもそれについて来た。
キドは胸の前に手を当てる。
心臓がドクドクと鼓動を早めた。
カノの目を見ると真剣で、これが本気であるのは一目瞭然。
息が荒くなり、彼女はギュッと目をつぶり、顎を引き身を震わせる。
「…気持ちの無いキスじゃ…ダメなんだよ…」
呟くようなカノの声に、キドはハッと目を開けた。
目の前のカノが深く頭を垂れ、壁についていた両手をキドの肩に乗せる。
「カノ…?」
「ねぇ…キド」
重なった声。
キドが発言を譲ると、カノはぽそりと一言。
「ぼくのこと、すき?」
幼児みたいな単純な質問。
キドはぽかんとして、カノの綺麗な黄色い髪を見つめる。
そういうことか…
ぷっと吹き出して、キドは口元に手を当て静かに笑った。
カノの頭を手繰り寄せ、その背を抱き身を重ねる。
「好きだよ。」
『ほんと?』
なんて返ってくる彼は今、かなり弱い。
その弱さが愛おしかった。
「ほんと」
よしよしと頭を撫で、キドは強くカノを抱きしめる。
本当に可愛い奴だ…
「本当に?」
「ホントだって…」
何時までも繰り返されるやり取り。
かなり彼を不安にさせたようであった。
どうしたら…
許してくれるかな…