こんなの恋じゃないのに

※くまくまから頂いた小説です。
無断転載はご遠慮ください。




それは部活が終わり、すっかり空が黒に塗り潰されていた時刻にカノと帰っていた時のことだった。




「ふー、今日の部活も疲れたねぇ…。」





「そうだな。へ、へくちっ!!」





だいぶ温かくなってきたとはいえ夜の寒さに変なくしゃみをしてしまった隣のカノを見れば、やはりお腹を抑え、目尻に涙を浮かべながら必死に笑いをこらえていた。




「悪かったな…変なくしゃみで」




カノをギロリと睨む。





「いや、ゴメンってば!!そりゃあ寒いからくしゃみしちゃうよね!!あ、でもさっきのキドのくしゃみは…ぷぷっ!!って、ぐへっ!!」





カノの鳩尾に蹴りをいれ、黙らせる。





「ゴメンってばー、待ってよーきーどー!!」





痛みにこらえているカノをその場に放置して歩く。





カノは後ろから小走りで近付いてくるとねえねえ、とねだるように上目遣いをするカノは女の俺よりも可愛らしく少しムカつく。





「あそこのコンビニ寄らない?」




「何でだよ…」





こっちは一刻も早く帰りたいというのにカノはいつも寄り道したがり、あげくの果てに放課後デートだね!!なんて言うし。





「ね、ね!!おねがーい!!」





カノがねだるように俺の腕にどさくさに紛れて抱きついてきたのを俺は見逃さず、すかさず顔面にグーをいれる。





「痛い…あれ、キド?」





「コンビニ、行くんだろ?」





呆れたように言えばカノが満面の笑顔になり、俺の腕を引っ張りながら小走りでコンビニへと向かう。




























「温かいもの買わない?ほら、この肉まんとか…美味しそうじゃない?」





確かに美味しそうだと思った。





ポケットから携帯を取りだし時間を確認すれば既に時刻は19時をとっくに過ぎていた。





道理で腹が減るわけだとため息をつく。





晩ご飯前に食べてしまうのは少々気が引けたが目の前の誘惑に勝てるはずもなく、カノと同じようにマジマジと見つめる。





「あ、でもあんまんも美味しそうだよね!!キド、甘いもの好きでしょ」





「まぁ、そうだけど…」





悩むこと10分、俺はかなり欲張りな性格なのかもしれない。





肉まんもあんまんも食べたい。





「キドは選んだ?」





カノも顔には出さないがどちらにするべきか悩んでいるようだった。





「いや、まだ選んでない」





そう言えばカノが何か思い付いたのかニヤニヤと怪しい笑みを浮かべてある提案をしてきた。

























「僕って天才かもね!!」





ニコニコ笑いながら、そんな馬鹿なことを言うカノに冷めた視線を送りつつ手にしているものを食べる。





手にしているものは二等分された肉まんとあんまんの二種類。





カノの考えは二種類買って半分こしようというものだった。





あれだ、よく女子同士で違う種類のケーキとか頼んだらそれを分けあって色んな味を楽しむとか、そんな感じだ。





「ん、美味しいね!!ホッカホッカ!!」





ふーふーと息を吹いてちょうどいい熱さに調節しながら食べているカノを見て、そいえばコイツ猫舌だったよなとか思いながら食べる。





「なんか、こうやってるとさ…付き合ってるみたいだね!!」





「ブッ!!」





カノの言葉を聞いた瞬間、口に含んでいたものを少し吐き出してしまい穴があったら入りたいぐらいの羞恥、そしてカノの言葉にまた違った恥ずかしさというか照れくささを感じる。





「あらら、もったいないよ?はしたないし、キドも女の子なんだよ?」





誰のせいだ、誰の…とカノを睨み付けるがカノは気にすることなく食べる。





「まだ付き合うとか…そういうの考えたこと、ないし」





もし付き合うならと考えて真っ先に思い浮かんだのは今、隣にいる幼なじみだった。





何でこんなに顔が熱くて心臓がバクバクいってるんだろう。





「まぁ、そうだよね。でも僕はキドとなら付き合いたいな」





時が止まったように思えた。





まるで正しい呼吸の仕方を忘れたように息苦しくてカノの顔を見たら自分がどうにかなってしまいそうなぐらい…。





あれ、俺
カノのこと…





「キド、冷めちゃうよ?」





ハッと正気に戻り隣にいるカノを見れば既に食べ終わったようだった。





「冷めてる」





さっきまで美味しいと感じていたものが冷めているせいか何の味も感じず、ただ腹を満たしていくだけだった。





こんなの恋じゃないのに馬鹿みたい





自分に言い聞かせるようにカノに聞こえないぐらいの小さな声で呟いた。
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