*幼少期カノキド
赤レンガ造りの小さな家は今日も騒がしかった。
「ぷぷっ!!アヤノお姉ちゃん、そんなに焦っちゃってさぁ〜、もしかして図星〜?よっぽどその人のことが好きなんだねぇ〜!!」
「そ、そそそんなわけないじゃん!!」
カノが人をからかう光景は既に日常的なものだった。今日の標的はアヤノお姉ちゃんらしい。昨日はセトが標的で泣かされてたっけ。でもそれがカノなりのコミュニケーションだということを理解しているから誰もそれを咎めない。
「だってさ〜、アヤノお姉ちゃん、いっつも夕飯のときにその人のことばかり話してるじゃん!!」
「えぇ…そ、そうかなぁ…。やっぱり分かりやすいのかなぁ…うぅ。じゃあ…シンタローにバレてたり…うぅぅ」
アヤノお姉ちゃんは項垂れた様子で自分の部屋に戻っていった。相変わらずカノとの口喧嘩に全敗しているらしい。カノはそんなアヤノお姉ちゃんの後ろ姿に向かって笑顔で手を振っている。隣でカノとアヤノお姉ちゃんのやりとりを一緒に見ていたセトが何か言いたげな顔で私の顔を見つめていた。
「…好きってなんだろう」
そんなセトの問いかけに私はすぐに答えることが出来なかった。好きには色んな種類があるしそれは一言では説明出来ないことだ。そして頭になんとなく自分の親が思い浮かんだ。何故、父は『好き』じゃない女との間に私を生んだのだろうか。
「…そんなの…知らない」
「そ、そうだよね…ゴメン」
セトが泣きそうな顔で私に謝ってきたのを見て申し訳なくなったが私は謝ることもせず自分の部屋へと駆け込んだ。
「……はぁ、消えたいなぁ…」
でも消えたくない、なんて矛盾なことを考えながらベッドに潜り込み、すぐそばにあるぬいぐるみを自分に引き寄せ、ぎゅうぅっと強く抱き締めた。
「…っく、ふ…うぅ…もういや、だ…」
涙がポロポロと目から流れてはシーツに染み込んでいく。アヤノお姉ちゃんが羨ましいな。あんな親の血が流れた私に人を『好き』になることなんてあるのだろうか。もちろん、カノやセト、アヤノお姉ちゃん、お母さん、お父さんは好き。でも誰かと恋して家族を育むなんて想像出来なかった。
「キドー?」
カノの声がしたと思ったら毛布がいきなり捲られてばっちりカノと目があった。泣いていたことがバレたくなくてカノの手を払って再び毛布にくるまった。相変わらず彼は神出鬼没だ。いつの間に部屋に入ってきていたのだろうか。全く女の子の部屋にノックもせずに勝手に入ってくるとは今、入ってきたカノももちろんだがセトとお父さんも女の子の扱いがなってない。アヤノお姉ちゃんとお母さんに言いつけてやる、と小さく決意した。
「………………」
「………………」
どうせすぐに諦めてカノが部屋から出ていくだろうと思っていたのにカノが部屋から出ていく気配が全くなかった。カノからの視線に居心地が悪くなってきたなぁ、とか思っていたらまたカノが毛布を勢いよく捲った。
「も、もうっ!!なにするの、カノ!!」
「やっぱりキド泣いてたんだ、ホント…つぼみちゃんは泣き虫さんだもんねぇ〜?」
カノが小馬鹿したような発言をしながら私の頭を優しく撫でる。なんか子供扱いされてるみたいで癪にさわったけれど手は振り払わなかった。もう少しだけカノに頭を撫でられていたかったのかもしれない。
「ねえ、カノ…好きってなに。恋ってなに」
大人みたいなカノなら何か答えを教えてくれるんじゃないかと期待しながら訊いてみるとその予想に反してカノは眉を八の字にした。
「それは難しいかなぁ。それに正しい答えもないしね」
「…そう…だよね」
「まぁ強いて言うなら僕がキドを、想う気持ち…かな」
まだ分からなくていいよ、とカノは小さく付け足した。
「…なにそれ」
カノが私を想う気持ちなんて家族愛じゃないのだろうか。あぁ、やっぱり人の感情って難しい。
「さて、せっかく近くにベッドがあるし一緒に昼寝でもしようよ!!」
カノが私の体を押し込んで無理やりベッドに入ってきた。それはもう強引に。
「え…か、カノ!?」
「よいしょっと…じゃ、おやすみ〜」
カノは戸惑う私を無視して眠り始めた。しかも私を抱き枕にして。
「うー、」
目の前にはカノの寝顔が広がっている。カノの寝顔は年相応にあどけない。抱き締められてるからカノの匂いもずっとするし。なんだか照れくさくなりカノの胸に顔を埋めた。
――不意に、胸を疼かせたこの気持ちは…
あとがき…
遅くなってしまいましたが相互御礼として三ツ星様へ捧げます。
孤児院時代のカノキド…これで良かったでしょうか?
なんかシリアス風味だったし、シンアヤ要素が少しあったりキドさんの口調とか完璧捏造だし、色々突っ込みどころが満載ですみません…。
こんなもので良かったら三ツ星様のみ、お持ち帰りどうぞ!!
返品、書き直しも受け付けますので気軽にどうぞ!!
改めて、三ツ星様、相互リンクありがとうございます!!
これからよろしくお願いしますね!!