*カノキド
人は誰しもコンプレックスを抱えている。無論、僕も。僕の一番のコンプレックスは実は身長の低さだったりする。小さい頃、僕よりも小さかったキドやセトをからかっていたのにあっという間に身長を抜かれた挙げ句、恋人であるキドよりも身長が三センチ低くなってしまった。男として情けないし、僕だって一応男だから彼女よりは身長が高くありたいというプライドもあるし。身長が最低170欲しいと口を揃えて女の子は言うもんだからきっとキドもそうに違いない。だから、僕は頑張ってあんまり好きじゃない牛乳を飲んだりしたが成果は得られず、僕の身長は変わらない。もしかして僕の成長期は終わってしまったのだろうか。
「…はあ、」
まだ誰も起きていないアジトのリビングのソファーに座り、雑誌の『身長伸ばすために今、出来ること!!』と大きく書かれた欄をジッと睨み付けつつ、溜め息をついた。こんな僕を見たら、皆は驚きそうだな。いつも身長なんて気にしてないフリをしていたしね。
「…おはよう、カノ」
頭上から耳慣れた声が聞こえて雑誌を閉じて声のした方に顔を向ければ、やはり僕の愛しの彼女のキドがいた。
「あ、おはよう、キド」
習慣付いた癖のように欺いて笑顔を張り付ければ、キドが少し苦い顔をして手に持っていたコップを僕に差し出した。
「……えっと、キドさん?このいちご牛乳は何かな?」
手に持っているコップの液体を見て確か、キドはいちご牛乳が大好きなんだっけ…と考えながら、キドからの返事を待つ。
「お前、牛乳苦手だろ?だから、俺のいちご牛乳ならまだ飲めるだろ?」
キドがふふん、と得意げに鼻を鳴らして僕の頭を撫でてくる。キドに撫でられるのは嫌いじゃない。むしろ大好きなんだけどあんまり嬉しくない。普通、男である僕が女の子のキドを撫でるのが普通だろう。
「…もう、頭撫でるのやめてってば」
僕の頭に置かれているキドの手を優しく振り払うとキドが笑った。
「本当は好きだろ?」
キドがフッ、と優しげに笑う姿を見て胸がドキッと高鳴った。なんで男の僕よりもそんなに男前でカッコいいのかな…。でも女の子らしいキドも知っている。そのギャップが大好きでこの二面性を見れるのは彼氏である僕だけの特権。
「むー、絶対見下ろしてやる…!!」
少し唇を尖らせてキドをジロッと上目遣いで睨み付ける。我ながらちょっと女っぽい仕草かもしれない。
「お前ってひねくれてんのにこういう時は素直だよな。いつもそうしてれば可愛いのにな」
キドは何でそういう恥ずかしいことをサラッと言えちゃうのかな。僕がこう言ってって頼むと恥ずかしがるくせに。
「僕のどこが可愛いんだよ。むしろ、キドの方が可愛いし。今だって思わず抱き締めたくなるほど可愛い」
欺かずに真顔で言ったのが効いたのかキドがカァーッと顔を真っ赤にして僕から目をそらし、フードで目元まで隠した。そういう恥ずかしがりなところが可愛いんだよね。キドは自覚していないっぽいけど。
「…キド」
時計を見れば、皆がまだ起きないような時間。少しだけなら大丈夫かな。
「…なんだよ」
拗ねたような声色だけれどキドは一応、返事をしてくれた。
「…甘えさせて」
こんなこと言うなんて子供だな、と笑われそうだ。でも僕だって甘えたい時ぐらいある。母から充分な愛情を与えられなかった僕は体が大人に成長し始めているとはいえ中身はまだまだ子供のままで誰かに甘えていないと生きていけない。
「…仕方ないな」
キドは嫌な顔ひとつもせず肯定すると僕の頭をキドの胸に押し付けてきた。キドの心臓がドクンドクン、と煩く鳴り響いている。この音は生きていることを教えてくれるから安心するし、大好きだ。
「…僕、まだ身長…キドより低くてもいいや…」
キドより身長が低いからこうやって甘えられるのかもしれない。もちろん僕がキドより身長高くなったとしてもキドはこうやって僕を甘やかせてくれるだろう。でもやっぱりそれは男としてのプライドが許さない。だからね、今だけでもこうして甘えていたい。
「…つぼみ、大好き」
「…俺も大好きだよ、修哉」
あとがき…
相互御礼として氷華様へ捧げます。
な、なんかオチが相変わらず迷子ですがこんなもので良かったら氷華様のみお持ち帰りどうぞ!!
返品、書き直しも受け付けますので気軽にどうぞ!!
改めて、氷華様、相互リンクありがとうございます!!
これからよろしくお願いしますね!!