貴方さえいれば、まだ大丈夫
――失ってからそれが大切なものだと気づいた
彼を都会に誘ったのはホントに私の単なる気まぐれで彼が落とした定期券を拾って、言うことを聞きそうだったしコイツでいいや、という軽い気持ちだった。それがまさかこんなことになってしまうとは思ってもみなかった。
「…ヒビヤ…?嘘でしょ…?」
この血のかたまりはヒビヤじゃない。違う、これは夢だ。きっと私が目を覚ましたら照れくさそうにおはよう、と笑う気持ち悪いヒビヤがいるはずだ。違うの、これは現実じゃない。これはヒビヤじゃない。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
「何で…何でっ…覚めないの…何で私は目を覚まさないの…」
これは夢じゃないの?ガヤガヤと集まってくる野次馬と救急車とパトカーの音。どれもが夢みたいな出来事で、現実味がなくて、私は世界から取り残されたような感覚に陥った。
「…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
私のせいだ。私のせいでヒビヤは…ヒビヤは…死んでしまった。この世から命を消した。二度と戻らぬ人になってしまった。彼の両親に何を言ってやればいいの?私のせいでヒビヤは死んでしまいました、すみません?そんな簡単に収まるものか。私は重大な罪を犯してしまったのだ。私がもっと彼の話を聞いてあげてれば、もっと彼を見ていてあげれば、私がもっと力があれば…。結局私は自分のことしか考えてなかった。こんな私なんて死んでしまえばいい。生きてる価値などない。
「…………?」
視界の隅で揺らめく陽炎に私は目を細めた。その陽炎はまるで泣き崩れている私を嘲笑うかのようにゆらゆらと揺れている。そこで私の意識はブラックアウトした。
「……ん、ここは…」
目を擦ると指が濡れた。これは涙なのだろうか。私の膝の上にはどこかで見たような黒猫が私の目をジーッと見ていた。その猫の瞳を見て私は何か重大な事を忘れてる気がして必死に思い出そうとした。それはとても大事なことで…。
「…今、何時だろ…」
すぐそばに置いてあるタッチパネル式の携帯を手に取り、時刻を確認するとその時刻は…
「8月14日…!?」
何か違う。違和感を感じる。今日は8月15日じゃないの?なんで、なんで、時間が巻き戻ってるの!?その刹那、私は思い出した。
「……っ、ヒビヤッ…!!」
たまらずベッドから飛び起き、部屋から出てリビングへと出て周りを見渡すと後ろからぽん、と背中が叩かれた。
「…ひ、ヒヨリ…?どうしたの?珍しく焦ってるねー」
ヒビヤは何やら照れくさそうに頭を掻きつつそう言ったその姿に思わず安堵し、その場に座り込んだ。
「え!?ひ、ヒヨリ!?どうしたの、どこか調子悪いの??」
ヒビヤが腰を擦ってきたので肘でヒビヤの体を壁に打ち付けてやった。セクハラは許さない。ヒビヤの野郎、なに勘違いしてるんだか…だからモテないのよ。しかもヒビヤの懐から出てきた私によく似た人形を見て更に私は顔をしかめてしまった。
「いててて」
ヒビヤが打ち付けたお尻を擦りながら立ち上がり急いで人形をポケットにしまうと、気分転換に外に出ないかと誘ってきたが私はそれを断った。なんとなくあの夢を思い出してしまい怖くなってしまったからだ。
「…ヒビヤ」
自分より少しだけ高い身長のヒビヤに真正面から抱きついた。彼がここにいると、自分自身の手で確かめたかった。彼の心臓に耳を寄せる。ちゃんとドクンドクン、と規則正しい鼓動。
「ひ、ひひひひヒヨリさん!?ああああの…」
ヒビヤの酷く戸惑った態度にクスリと笑みをこぼした。もう少しだけこうしていたい。また彼がどこか遠くの、私にはもう届かない場所に行ってしまいそうだから。
――貴方は私が守るから。
もう後悔なんて、したくない。
あとがき…
拍手御礼文以外での初ヒビヒヨ!!
恋に気付くヒヨリを書きたかったのに…これじゃヒヨヒビじゃないか…汗
しかもシリアス…
ヒビモモも可愛いけどでも私はヒビヒヨ派だから!!
ちなみにコノハはまだぐっすり眠っている…笑
深夜に書いたやつなんで文が変だなぁ…また今度、書き直すか。