短編 | ナノ




また明日




「…じゃ、また明日」





彼が素っ気なくそう告げるのはいつものことだから気にしない、気にしない、んだけど…やっぱり、少し寂しかった。





「うん、バイバイ…」





彼の後ろ姿が見えなくると私は振っていた手を下ろして、首に巻き付けてあるマフラーを整えた。





「…また明日、か」





私に明日は来ない。
何故なら私は今日死ぬ、から。





彼と一緒に帰らず学校の屋上へと向かう予定だったのだがどうしても彼との最後の時を一秒でも長く過ごしたかったから。





我ながら馬鹿馬鹿しいとは思う…彼と一緒にいたいなら死ななければいいだけの話だというのに。





でもこれ以上この世界で生きていくなんて私には耐えられないから他の選択肢を選ぶことはもう…出来ない。















「…暑いなぁ」





それも当たり前のことだけれどこんな真夏にマフラーなど着けるもんじゃない、でも最後だから…彼が似合ってると褒めてくれたから。





もう少ししたらこの暑さを感じられなくなると考えると少し寂しくなった。















しばらくして学校の校門に辿り着けば運動部の威勢のいい声が聞こえてきて、本当にいつもの日常と変わらない…と少し笑った。





下駄箱でローファーから上履きに履き替え、廊下を歩く。
廊下には吹奏楽部の演奏と自分の足音だけが響く。





まっすぐ屋上へは向かわず色んな教室に入る。





テスト週間前になるといつも彼に勉強を教えてもらっても結局本に夢中になって彼に怒られていた思い出の図書室とか…その他にもいっぱい。





思えば私の世界にはいつも彼がいたんだなと考えてると勝手に涙が流れてきて慌てて腕で拭った。















階段の一段一段をゆっくりと上り屋上への扉を開けた。





「…風、強いな」





よく昼休みはいつもここでつまんなそうに空を眺めている彼を後ろから驚かしたり昼寝をしている彼を必死に起こしてあげたり…毎日シンタローと二人でお弁当を食べた、おかず交換してシンタローの口に無理やり卵焼きを詰め込んで怒られたり…二人の、思い出の場所だった。



















『わっ!!』


『ひいぃぃぃ…!!!!!』


『あはは!!シンタロー、情けない声ー!!』


『し、仕方ねーだろ!?』














『…シンタロー、起きてってば!!授業始まっちゃうよ!!』


『…うーん、母さん…まだ土曜日じゃ…』


『…もー、なに寝ぼけてるんだろ…。でも珍しくシンタロー、無防備だ…』


『ん、って、うわぁぁ!!!!』


『…へ?って、いったぁぁぁ…シンタロー、いきなり起き上がらないでよ…おでこ痛いぃ…』


『お、お前近すぎ…!!』


『ふふ…シンタロー、顔真っ赤だよ?』


『う、うっせー』















『はい、シンタロー!!あーん…』

『は、はあ!?お前なに言ってんだよ…』


『…ん?恥ずかしがらなくていいんだよ?はい、あーん…』


『べ、別に恥ずかしがってるわけじゃ…ぐへ』


『これ私が作ったんだよ!!』


『いきなり突っ込むなよ!!!!殺す気か!!!!!!』


『えへへ…ゴメンゴメン』


『…はあ。でも…まあ…美味かったよ』


『そ、そっか…って、髪ボサボサになるからそれ以上、撫でないでよー!!』



















「…もうここでシンタローと一緒にお弁当を食べることも起こしてあげることも出来なくなっちゃうんだよね」





屋上を一通り見回したあとフェンスに手で触れる。





彼がいつもこうして空を眺めているように私も空を眺めた…こうすれば彼と同じ景色が…世界が見えると思って…でもやっぱり私と彼は違う…まるで正反対だ。





「…このまま死んだって誰かが代わりになるから」





彼はあのときどんなことを思ってこの言葉を呟いたかは私には解らないけれど彼があのとき言っていた言葉は私の考えてることのそのまんまだった。





私がいなくなったらどれほどの人が涙してくれるのだろう。





…クラスメイトは泣いてくれるかな


…父さんは泣いてくれるかな


…彼は、泣いてくれる…かな





フェンスに足をかけ、フェンスの向こう側へ移った。





「…っ!!あと一歩進んだら私は…、」





死ねる、のかな…





私が死んだら彼は私を追いかけて死ぬ、のかな…それは嬉しいけど、やっぱりダメ。





そんなこと誰も望まないから…彼は私の分まで生きて私の分まで幸せになってほしいから。





「…ふふ、私って案外いじわるかもね」





フェンスの近くに彼の破ったテストの答案用紙をテープで何とか貼り付けて作った不格好な折り鶴を置いとく。



















『構わないでよ、何処かへ行ってくれ』


私の手は払われた


『行かないよ』


なんて言って私は君の手を掴んだ

『五月蝿いな』


君はちょっとの先を振り返ずに歩いた















なんで今、このことを思い出したんだろ…。





思い出すと胸がチクチクしてもやもやして何故か凄く泣きたくなった。





すぐ下を見ればここが結構な高さだということが解ってすごく…怖くて、歯がガチガチと鳴るほどにガタガタと震えて心臓の鼓動がどくんどくんと速くなっていく。





私、死ぬの…?





怖いよ…助けてよ、シンタロー…!!





その思いは届かないまま、私は…空中へふわりと足を離した。























――死んじゃった。ごめんね――































あとがき…


暗い…そして長い…笑笑


ロスタイムメモリーが出ると聴いてせっせと書いてたら少しうとうと寝ているうちに投稿されてて急遽ロスタイムメモリーの歌詞をちょっと最後に書いた…という何とも適当


シンアヤ大好き!!
切ないCPは私の大好物!!






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