俺に対して幸せと言うことに罪悪感があるのか、申し訳なさそうに遠慮がちに、だけど、ふわりと可愛らしい顔で答える由香。
「由香と会うの久しぶりすぎるから…今すぐに許すのは無理そうだわ」
「うん。急にごめんね」
「由香、もう謝んの禁止」
「でもっ」
さっきの由香の表情を見て、変だけどなんか安心した。
眉間に皺を寄せて謝り続けようとする由香の目を見て、今度は俺が笑顔を向ける。
「な?謝るの禁止」
「ん。…ありがとう」
「戸惑ってるから今すぐには無理だけど、俺もきちんと成長するから」
月を見上げてそう宣言。
俺から逃げないで過去と向き合った由香の姿を見て、俺も逃げてばっかじゃダメなんだと改めて感じさせられた。
由香に言ってるはずなのに、頭に浮かんでいるのはキラキラと金色の髪をした、一生関わり合うことなんかないと思っていた種類の人間。
「…久しぶりに由香とあって、なんていうのかな、由香には悪いけど、自分ではもっと由香のこと憎んでる気でいた」
「え?」
「でも、思ったより大丈夫だった。……由香が幸せになってて安心した」
「幸福。相変わらずお人好し」
うまくは言えないけどなんとか言葉を紡ぐ。
最初久しぶりに由香と会ったときはどうすればいいのかわかんなかったけど、改めて由香と向き合ってみて、たった数日間しか付き合ってない奴の存在が由香よりも大きくなっていたことに気づかされてしまった。
「由香、ありがとう」
「…お礼言われることなんてしてないよ。幸福ありがとう……じゃあね」
ふわり、柔らかく微笑んだ由香が立ち上がる。
きっと由香と会う機会はしばらくない。呼び出しておいて言うこと言って立ち去るなんて自由奔放だった由香らしい。でも、由香なりに気を使ってくれたんだ。
「ありがとう。…大人になるよ」
由香と別れてから数分。
何度か深呼吸を繰り返してから自分の頬っぺたを両手で思い切り叩く。
静かな夜の公園にパチン、と、不似合いな音。
「よしっ」
あんなに由香に会うのが億劫だったのが信じられないくらい清々しい気持ちになった俺は、いつもより少し弾んだ足どりで帰路につく。
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