「ユキ、あのとき」
「あのさ!」

由香があの結婚式のことを謝ろうと口を開いたところで口を挟む。
思ったよりも語気が荒々しくなってしまったせいもあってか、由香が少しだけ身体を震わせた。怖がらせてしまったみたいで少し申し訳ない。

「あのさ、ごめん…あのさ、ユキって呼ぶの、やめてくんないかな」
「えと…ごめん、幸福」

控えめにさっきとは違う呼び名を口にする由香。
俺はというと、由香がどんな表情をしてるとか見ようともせずに握り締めていた自分の拳に目線を向けていた。

「なんか私たち謝ってばっかだね」
「……あぁ」
「あのね、謝っても許されないってわかってる。ただ謝って、自分が楽になりたいだけだろって幸福に思われても仕方ないと思う。でも、それでも、」

今になって緊張しているのか、急に由香の声が震え出す。振り絞るようなか細い、それでいて意思の篭ったような声。
そこでやっと、俺は由香の顔を見た。
気まずいのは由香の方。でも、顔を合わせた由香は、俺の目をジッと見据えた。

「ごめんなさい」

ただそう一言。
正直何も言葉が出てこない。さっき由香が自分で言った通り、謝ったからといって、はいそうですか、なんて許せるはずもない。
由香がどうしたいのかがわからない。

「由香。………今、幸せ?」
「え」

眉間の皺が浅くなったのを見て、由香の身体の力が抜けたのがわかった。
あまりにも唐突すぎる質問に驚いたのか、怖い顔で俺を見据えていたのに、目を真ん丸くして呆けたように瞬きを繰り返す。

「俺さ、やっぱりそんなすぐには由香のこと許せそうにないんだわ」
「……うん」
「由香、今幸せ?」

また脈絡もなく同じ質問をぶつける。

「幸せ」



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