仕事の合間に何回時計を見たのか、もう自分でもわからない。
同僚や上司に大丈夫か、なんて声を掛けられて、そんなに酷い顔してるのかと自分の頬っぺたをペチペチと叩いて気合いを入れ直すのは、これで今日四回目だ。

どうして嫌なことが迫っているときってのはこんなに時間が早く進んでしまうものなんだろう。
そのくせ、嫌なことが起こっている間は時間が経つのが遅いんだ。


考えて考えて考えて考えて、考え抜いた末……結局、三十分も前に待ち合わせ場所の公園に着いてしまった。

「ユキ?」
「…由香。まだ約束の時間じゃないけど」
「ユキだって早く来てるじゃん」

目を伏せて笑う顔は昔と変わらない。
早めに来て気持ちを落ち着かせようと思ってたのに、予想外に由香も早く来過ぎていたせいで心の準備をする間もなくなってしまった。
側に寄って来る由香の姿を見て、ベンチに腰掛けていた俺は一度立ち上がってから由香をベンチに座るよう促す。
ふわり、と、そんな効果音が似合う笑顔を浮かべながら遠慮がちにベンチに腰を下ろした由香を確認してから、その横に俺もまた座りなおした。

「……仕事帰り?」
「あぁ」
「お疲れさま」
「ん」

意識している訳ではないのに素っ気なくなる返事。
横に座った由香を見遣れば、緊張したような困ったような、なんとも言えない表情で髪を耳にかけていた。

「話って、なに?」

和やかになりそうだった雰囲気を俺の一言がぶち壊す。
膝に乗せていた両手を固く握り締める由香を横目に、淡々と物事を進めてしまおうとして出た言葉だった。

「あのね、あのときのこと…謝りたくて」
「あのときって」

言われなくてもわかる。
あのときってのは、完璧、結婚式の出来事に違いない。つーか、結婚式の当日に由香が別の男に連れてかれる後ろ姿を見て、それ以来の再会だっつーのにそんとき以外のことである筈がないんだ。



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