「でも、俺はお前を好きにならない」

親指でポチの唇を軽くなぞってから当てるだけのキス。
まさかこのタイミングでキスをされるなんて思ってもみなかったのか、目を見開いて格好悪く口を開けている。

「え、ちょっと、鳴海さん!…急に、なんで?」
「はじめっから断っとけば良かった」
「そんなこと」
「答え、出すっつったろ。…お前のことを好きにならないってのが、試しに付き合った答えだ」
「さっきはまだわかんないって…無理してないって、言ったじゃないですか」

頬っぺたに当てていた方の手の手首を捕まえられそうになったすんでのところで躱して引っ込めた。

悔しいのか、悲しいのか、それとも俺の言葉に怒っているのか…色んな感情が入り混じった表情。
その姿がまるで捨てられた犬のようで、思わずそのキラキラした頭に手を伸ばしそうになったけど、今そんなことをしても酷だと気付いて手を握り締める。

切り捨てたのは自分の筈なのに、目の前のポチを見ていると思い切り抱き締めたり優しくしてやりたいと思う自分は最低だ。

「鳴海さ」
「お前がいい奴なのは短い期間で痛いくらいにわかった。けど、もう人を好きになるつもりなんかない」

なにかを言おうとしたところを無理矢理遮る。
有無を言わせないように強く言ったつもりだったのに、真っ直ぐな目で俺を見ながらへこたれずに口を開いた。

「俺は…裏切ったりなんか、しません」

語気を荒げて拳を握り締めるポチに対して気の利かない俺は、ごめんな、なんて月並みの言葉を吐き出して半ば飛び出すようにポチの家を出た。







「……三澤、沢」

乾いてカサカサになっている自分の唇を触りながら、あいつの名前を呼ぶ。
さっきのキスの感触がまだ残ってる、気がする。



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