「あれって、主人公目線だからハッピーエンドに見えるけど……お前さ、ああいうドラマの取り残された男の気持ちになったことあるか?」
自嘲するように顔にぎこちない笑顔を浮かべる。
ポチはというと、今の説明で俺と由香の間に昔なにがあったのか察したらしい。
その当時のことを思い出すと、今でも悲しみと怒りで訳がわかんなくなる。
取り残された悲しさと恥ずかしさと悔しさ。周囲から向けられる同情と好奇の視線。居た堪れなくて死にたい気分だった。
「まあ、そんなことがあってさ。それ以来なんだわ、由香に会ったの」
俺になんて声を掛けたらいいのかわからないのか、顔をくしゃりと歪ませて歯を食い縛っている。
下手に慰めの言葉を言う奴じゃなくて良かった。
上辺だけの慰めなんて聞き飽きたし、何より同情される情けなさったらない。
「いまだに引きずってるなんて、自分でも女々しいってわかってんだけど……それくらい由香のこと、好きだったんだ」
「…………鳴海さん」
俺のことを好いてくれている人間に向かって言う台詞ではないけど、なんでも聞いていいと言った以上、全てを話す覚悟でいた俺は包み隠さず口に出した。
辛うじて振り絞って出した声なのか、少し掠れてる。
「お前が泣きそうになる意味がわかんねぇよ」
目頭に涙を溜めて眉間に皺を寄せているポチ。
渇いた笑いを零して、子供をあやすように髪をぐしゃりと撫でてやる。
「鳴海さん、おれっ」
「お前と試しに付き合ってみて、楽しかった。一週間ってこんなに長かったっけ…とか思ったりして」
「なんで、今そんなこと」
よく考えてみたら、ポチと出会ったのはつい一週間ほど前のことだ。
そんな野郎と、急にアドレスと番号を交換して、髪を切って貰って、果ては付き合ってまでいる。
横槍を入れてくるポチを無視して、頭に置いていた手をするりと頬っぺたまで移動させた。
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