周りが薄暗いせいか、星がよく見える。あれからどれくらい時間が経ったのか確認もしないまま立ち上がった。
もう考えることも面倒になって、俺は足の向くまま歩みを進める。
人気もなく薄暗い道を何も考えずにずんずん歩けば、いつの間にか、もうアパートの目の前まで到着していた。
そのまま一気に階段を駆け上がって扉を開けようと手を掛けたその時、ケツのポケットに突っ込んでいた携帯が振動しだす。
ディスプレイには、さっきまで一緒にいたポチの二文字。
「……もしもし」
『あ、鳴海さん。今って電話大丈夫ですか?』
「ん。大丈夫」
遠慮がちの声が電話越しに聞こえてくる。多分、申し訳なさそうな情けない顔してんだろうな、なんて思うと自然と笑みが零れた。
『なんか声響いてますけど…今どこですか?』
「お前ン家の目の前」
俺がそう言うやいなや、携帯と扉の向こう側から夜だというのにも関わらずドタバタと慌ただしい音が響く。
数秒だけ待てば、勢い良く開く目の前の扉。
「夜中だぞ」
「鳴海さん、なんで?」
「あ、ごめん。勝手にドア開けようとしてた」
「別にいいですよ…じゃなくてっ!鳴海さん、帰ったんじゃないんですか?」
今の時間を忘れているのか、ポチの声が響く。周りが静かなだけに、うるさい。
自分の口許に人差し指を持っていって、シーと言ってやれば思い出したようにはっとして口を噤む。
それから一度小さく深呼吸したポチが中に入れてくれた。
「なんでまた戻って来たんですか?」
「自分でも…わかんない」
律儀にも用意してくれたコーヒーを一口飲んでからそう答える。
ソファ並んで座ったポチは、それ以上聞かない。
「お前は、なんの電話だったんだよ。さっきの」
コーヒーの入ったカップを両手で持ったまま問い掛ければ、今度は大きく深呼吸をしたポチが俺を見据えてきた。
緊張したような真面目な表情に、なぜかこっちも緊張する。
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