微笑んだままの正臣と、その正臣を睨みつけている千秋さん。
両者一歩も引かないまま時間が過ぎていって、二人の間からは今にもばちばちという音が聞こえてきそうな勢いだ。
第一、面倒臭がりで何事にも無関心で関わろうとしない正臣がむきになってること自体が既に可笑しい気がする。
顔は笑ってるけど、あんまり機嫌の良くなさそうな正臣の姿にハラハラとしながら見ているだけしかできない。
「めんどくせぇな、お前ら」
先に妥協してくれたのは、千秋さんだ。
本当に面倒臭そうに髪の毛を乱雑に掻き乱して唇に挟んでいただけの煙草をゆらゆらと上下に動かす。
正臣は相変わらずの笑顔を顔に張り付けたまま、千秋さんを見据えていた。
「好きだったよ。……昔の話だけどな」
その言葉に、俺は何も言えない。
火のついていない煙草を真っ二つに折ってぎゅっと握り締めた。
「じゃ、今好きな人は？あ、彼女とかいる？」
「正臣？なに聞いてんの」
千秋さんが鳴海さんを好きだったということを聞き出したかと思えば、さっきとは打って変わった態度で全然関係のない話をし始める。
「…こいつのこと黙らせろ」
正臣のことを指差して盛大に溜息を吐き出す千秋さんに、俺もどうすればいいかわからずに渇いた笑いを零す。
千秋さんとの話を再開させたい俺は、正臣のことを睨みつけた。俺が睨んでも怖くないだろうけど、流石に空気の読める正臣も黙る。
「千秋さん。俺、鳴海さんに直接聞きます。それで、教えて貰えなかったら…お願いします」
頭の中では、鳴海さんになんて言って聞けばいいのか色々と考えながら、さっき喝を入れてくれた千秋さんに向かって深々と頭を下げた。
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